第12話
みんなは、おしのを先頭に歩いて行きました。すると、いくらも行かないうちに、後ろから人の走ってくる足音が聞こえてきました。太一です。太一はうわさを聞いて、あわててとんできたのです。太一は皆を追い越すと、道に立ちふさがりました。走ってきたので息を切らしていますが、怒りのために目はぎらぎらと輝いていました。そひて、大声で言いました。
「おまえら、どこへ行くつもりだ。」
みんなは太一のけんまくに押されて、思わずあとじさりしました。しばらくして、おしのがやっと口を開きました。
「まりのとことよ。」
すると、太一は少し口調をやわらげて言いました。
「そんなに大勢でおしかけて、まりをどうするつもりだ。」
おしのは言いました。
「あのこをこらしめてやるのよ。」
太一はまた声を荒げました。
「なんでこらしめるんだ。」
おしのは、その太一のけんまくに、むきになって言いました。
「太一さんは知らないでしょうけど、あのこは太一さんに何かふしぎな力を使っているのよ。だから、まりをこらしめてやめさせるのよ。そうでなければ、太一さんがあんなタドンを好きになるはずがないわ。太一さんを好きになるなんて、タドンのくせに生意気・・・」
おしのがおしまいまで言わないうちに、太一はいきなり大声で、
「ばかやろう。」
というと、おしののほほを打ちました。
「おまえらは、なんでそんな考え方しかできないんだ。あのこだって立派な人間だ。誰を好きになろうとかまわないじゃないか。だいいち、おれはまりのことを何とも思っちゃいないんだ。
でもな、おしの。おれはおまえが大きらいになったぞ。」
あっけにとられているおしのにそう言うと、みんなにも大声で言いました。
「おまえらもわかったか。もしまりに手出しをしたら、足腰たたないように、たたきのめしてやるからな。」
そういうと、太一はまた走って帰って行きました。そうして、その日は無事にすみました。そして若者たちも、まりをいじめたりしなくなりました。
でも、娘たちはだまっていませんでした。特に、ほほを打たれたうえに、面と向かって、きらいだなどといわれたおしのは、まりをひどく憎んでいました。それで、何かといやがらせをするようになりました。さすがに面と向かっていじめたりはしませんが、まりが外に出ている時は、きまっていやみを言ったりします。たとえば、
「あら、どこへおでかけ。」
とか、
「太一さんは今日はいないわよ。」
といったぐあいです。
かわいそうに、まりは外にもあまり出られなくなってしまいました。そして、たまに外へ出たくなっても、なるべく人に会わないように、そっと裏道を抜けて神社へ行くのでした。そこならほとんど誰も来なかったからです。
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