第10話
ところがある日のことです。まりは、やっぱりいつもと同じように、遠くから太一のことを見ていました。そして、そこを通りかかった若者たちに見つかってしまったのです。若者たちは、口々にまりをからかってはやしたてました。
「おいこらタドン。おまえでも一人前に恋をするつもりか。タドンのくせに生意気だぞ。」
とか、
「へえ、お前、太一が好きなのか。やめとけ、やめとけ。太一がお前なんぞ相手にするもんか。よく恥ずかしげもなく、こんなところへ出てきたもんだ。」
などと、はやしたてます。まりは、どうしたらいいかわからなくなって、とうとうしゃがみこんで泣き出してしまいました。そんなまりの姿に、若者たちはますます調子に乗ってしまい、中には小石を投げつける者まで出てきました。
すると、そこへいきなり太一が飛び出してきたのです。そして、しゃがみこんで泣いているまりを見ると、いきなり若者たちに向かってとびかかっていきました。そして、あっけにとられているまりの目の前で、全部なぐりたおしてしまったのです。
太一はまりのそばに来て言いました。
「大丈夫か。家まで帰れるか。」
まりは、太一をそっと見つめていたことがばれてしまって、もういたたまれない気持でした。それで、
「何でもないわ。一人で帰れるからいいの。」
と言うと、あわてて逃げようとしました。でも、どうしたことか、足が言うことを聞きません。まりは、情けないやら恥ずかしいやらで、すっかり悲しくなってしまいました。
まりは、太一はきっと怒っているにちがいないと思いました。でも太一はまりを引き起こすと、やさしく言いました。
「いいや、送ってってやるよ。」
まりがことわろうとするとすると、
「おれが送ってってやるって言ってるんだ。文句を言わずにさっさと歩け。」
と言って、どんどん手を引っ張って歩き出しました。途中で、まりがけがをしているのに気づくと、手ぬぐいを破って包帯をしてくれました。そして、本当に怒ったような口ぶりで言いました。
「あいつら、石までぶつけやがるとは、もうかんべんできねえ。今度会ったら足腰立たねえようにたたきのめしてやる。」
まりは、そんな太一のけんまくに、あわてて言いました。
「もういいのよ。かんべんしてあげて。気になんかしていないから。」
すると、太一はあきれたように言いました。
「お前、あんな目にあって、あいつらのことを怒ってないのか。」
まりは、うなずきました。太一はぽつんとつぶやきました。
「お前はやさしいな。」
それからしばらく歩きました。やがて、二人はまりの家の近くに来ました。まりは、もう涙が出てくるのががまんできなくなりました。それで太一に、
「ありがとう。ここまででいいわ。」
と言うと、急いでかけ出しました。かけている間にも、涙がぽろぽろ出てきます。まりは家に帰ると、ものも言わずに奥の方へ行って泣きました。おたよは、
「かわいそうに、またいじめられたのね。」
と思って、何も聞かずにそっとしておきました。
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