第9話
でも、まりにも好きな人がいたのです。それは、ほかでもない太一でした。ただ、まりはほかの娘たちのように、連れ立って太一の働いているところを見に出かけたり、うわさ話をしたりするようなことはありませんでした。まりは、遠くの方で、木の後にかくれて、そっと太一の姿をながめるだけでした。けれども、ふしぎなことに、太一はそんなまりの姿に気づいているようで、時々まりのいる方をながめたりしました。でも、そんな時のまりは、見つかったら叱られるみたいに、あわててかくれてしまうのでした。なぜって、まりは太一が自分のような不器量な娘を好きになるはずがないと、思いこんでいたのですから。
まりは、ずっと前から太一が好きでした。小さいころ、村の男の子たちは、よくまりをいじめたのに、なぜか太一だけはかばってくれたのです。そして、太一はガキ大将でしたから、みんなも太一がいる時は、けっしてまりをいじめませんでした。
ある時など、まりをさんざんからかったあげく、石を投げつけた男の子たちを、年下の太一が、みんなたたきふせてしまったこともありました。相手は五人もいましたから、太一の方も傷だらけでした。まりはとても嬉しかったので、太一の方へかけよってお礼を言おうとしました。けれども、太一は怒ったような顔をして、大声で言いました。
「かわいそうだから助けてやっただけだい。目ざわりだから、早くどっかへ行っちゃえ。」
まりは、いじめられたことより、太一にそう言われたことの方が悲しくて、家に帰ってから長いこと泣いたものでした。
でも、まりは太一が好きでした。ですから時々太一のことを、遠くからそっと
見守っていたのです。
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