第8話

 まりは、もう十五になっていました。でも、姿形は昔とちっとも変っていません。そして、その食べ方も相変わらずで、一日中何かを食べていました。吾平もおたよも、よく飽きないものだとすっかり感心してしまうほどでした。

 ところで、十五といえば、もう年頃です。ふつうの娘なら、誰か好きな人ができてもいい年頃です。村の娘たちの間でも、同じ年ごろの若者たちの話が、いつも出ていました。たとえばほら、

「どこそこの家のだれそれさんは、とても男らしいわ。」

とか、

「あの人より、こっちの人の方がずっといいわよ。」

というような話です。そして、野良仕事が終わって、みんあで帰る時は、まだ畑で働いている若者たちをながめて、そっとうわさ話をしたりします。もちろん若者たちも、仲間が集まれば、村の娘たちの話でもちきりでした。

 娘たちの間で一番人気のあるのは、太一という若者でした。背が高くて、よく日に焼けた、がっしりした体つきの、村でも評判の働きものでした。それに、ただ一日中働いているばかり、というわけでもありません。頭がいいうえに、なかなかのいたずら好きで、時には、あっと驚くようないたずらをやってのけて、仲間を驚かせたりします。そんな気性ですから、若者たちにも人気がありました。

 若者たちの間では、おしのという娘が、一番の人気でした。おしのは庄屋の娘で、村一番の器量良しでした。それで、村のみんなは太一とおしのは、きっと似合いの夫婦になるだろうと、うわさをしていました。それに、おしのも太一が好きなようでした。でも、太一の方は、そんなうわさなどまるで気にもとめていないようすでした。それどころか、仲間がひやかすと、怒ったように、

「おれには、おしのなんて似合いじゃないよ。だいいち、おれはあんなつんつんした女は好きじゃないんだ。」

と言ったり、不機嫌そうに黙り込んだりします。でも、みんなは太一の照れ隠しだと思っていました。

 こんなふうに、村では、年頃の娘どうし、若者どうしが集まっては、誰がすてきだとか、あの人には誰か好きな人がいるようだとか、そんな話に花が咲いていました。

 けれども、まりはいつもひとりぼっちでした。村の娘たちも若者たちも、まりのことは初めから相手にしませんでした。まりの方も、すっかりなれっこになってしまったかのように、いつも一人で、山の草木や動物たちを相手に過ごしていました。

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