第5話 幕間

 風が頬をつたう。冷た過ぎず暑過ぎず適度な風が頬をつたう。

 走っている時よりも優しい風は心地よく気分が楽になる。


「ふぅ……」

 

 息を吐く。

 任務を終えゆめさんと別れた私は自宅に直行するのではなく、海岸沿いの公園のベンチに座っている。

 別にそのまま自宅に戻ってもよかったのだが何故かこの街の景色を少し眺めてみたくなったのだ。

 こういう時は直感に従ってみるのも悪くはないから。

 と、


「すみません……、ちょっといいですか?」


 突然後ろから話しかけられた。


「はい? なんでしょうか?」


 後ろを振り向き言葉を返す。

 そこにいたのはショートカットの女の子。

 しかも何故か巫女服。


「その……、千年神社ってどこにあるか分かりますか?」

「千年神社?」

「はい。あ、見て分かる通り私、巫女さんなんですけど……。その、道に迷っちゃって……」


 女の子がくるっとターンする。

 白と赤の巫女服がふわっと舞う。

 スカートチックになっている袴がとても似合っている。


「ん〜っと……、多分こっちだと思います……」


 指を指す。


「こっちですね、ありがとうございます!」

「いえいえ……痛っ……」


 女の子が礼儀正しくお辞儀をしたのを見て私も立ち上がろうとした時についた右手に痛みが走る。


「大丈夫ですか!?」

「はい、大丈夫です……」


 心配そうに聞いてきた女の子に言葉を返す。

 右手を押さえた。


「あ……、怪我してるじゃないですか! ちょっと待ってくださいね」


 そう言って女の子はお札を取り出す。

 そして、


「治療のおん


 魔法を発動させた。

 ほわほわ〜っと優しい光が私の右手を包み込みまっという間に傷を治していく。


「あ、まだ動いちゃダメですよ。この魔法は傷を治す魔法であって痛みを消す魔法じゃないんです」


 私に説明してくれる女の子。

 私が魔法を知らない一般人だと思っているようだ。

 まあ、本当は知っているけど。

 この魔法以外にも傷ではなく痛みだけを消す魔法があるらしい。

 見たことはない。


「ありがとうございます」

「いえいえ、これでお返しになればいいんですが」

「なりましたよ、助かりました」


 満足そうに微笑む女の子。


「えへへ。それじゃあこれで……、あ、私、幽気あかりって言います。こんな時に自己紹介なんて変ですけど……」

「あ、私は姫芽です」

「姫芽ちゃん、素敵な名前ですね! それじゃあまたいつか〜!」

「あ、はい!」


 幽気あかりと言ったその女の子は走って行ってしまった。

 初対面の人にも治療魔法を唱えてくれる優しい女の子だった。

 心があったかい。

 直感に従ってみて正解だったなと思った。


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