第4話 戦闘終了

「ふっ!」


 これ以上は耐えきれないと思い奥の手を使う。

 私の周りに冷気が満ちる。

 握っている剣が凍りつきそのまま男が持っているパイプ、そして男の腕へと侵食していく。

 男は目を驚いたのか目を見開き私から距離をとった。

 無詠唱魔法。

 必要とする詠唱を省略し、威力、持続時間を代償とし高速で魔法を発動する方法。

 敵の意表を突くために有効な方法だ。

 この隙を逃さず距離をとった男に近づく。

 

「やぁ!」


 凍っている右腕を斬りつける。

 そのまま切断し止血のためにもう一度凍らせる。

 殺すことはしたくないから。


「ぜい!」

「ぐっ……」


 そして体制を崩した瞬間に蹴り飛ばした。

 壁にぶつかる男を動けないように氷漬けにする。

 凍らせるのは体だけで顔は凍らせていない。


「さて、残るはあなただけですが?」


 リーダーであろう男を睨む。


「待って!殺さないでくれ!もうしないから!」

「……へ?」


 あ、あっけないな……。

 少し拍子抜けだ。

 まあいいや。こちらとしても争うのはあまり好まない。


「動かないでくださいね」


 男のほうに近寄り拘束器具を付けようとする。

 が、


「とでも言うと思ったか!死ねぇ!!」


 刃物!

 どこに隠し込んでいたのか私目掛けて走り込みナイフを振るう。


「ぐっ……」


 致命傷を避けることはできたがとっさに出した右腕に少しナイフが当たる。

 痛みに声を上げた。

 油断していた。ドラマでもお決まりの展開だろう。予想できたはずなのに……。


「うらぁ!」

 

 またこちらに向かってくる男。

 速いっ……。

 回避で精一杯だ。


「ひひひひひひ」

「ぐっ……」


 明らかに普通じゃない……。

 これが魔術麻薬?

 回避を繰り返しながら考える。


「はぁ、はぁ……」


 無詠唱魔法を使ったからか体力の消耗が激しい。

 氷のブーツはかろうじて装着できているが魔力を練り上げるのも苦しくなってきた。まだまだ未熟だな、私。


「うらぁ!しねぇ!」


 いけないもう一度回避を……。

 後ろに飛ぼうとして、

 

 ピタ。


 手に何かが触れた。

 壁っ!?

 これじゃ避けれな……。

 咄嗟に目を瞑る。


「姫芽ちゃん!」


 バン! と側面の壁が破壊される音と共に男が吹っ飛ばされる。

 

「ゆめさん……」


 目を開けると前にはゆめさんの姿があった。

 

「いひひひひひひひ」


 吹っ飛ばされた男は所々から血を流しているのにも関わらずピンピンしている。


「あれが魔術麻薬ですか」

「多分そうだと……」


 立ち上がりゆめさんの隣まで歩く。


「分かりました。姫芽ちゃん、サポートをお願いしますね」

「分かりました」

「それでは。ファイア!」


 詠唱。男の周りで火柱が上がる。


「いるるるぁ!」


 そんなことお構いなしにこちらに突っ込んでくる男。炎が燃え移る。

 ゆめさんは冷静に距離を取る。

 私はそれについて行くだけだ。

 

「ウォーター!」


 すぐさま次の魔法を放ち鎮火。


「サンダー」


 濡れた体に黄色い稲妻が走る。


「あががが……。ひひ……」


 感電し痙攣する男に素早く近づいて首を叩く。

 そして、


 バタッ。


 と、男が倒れた。


「ふぅ……大丈夫でしたか?」

「はい……なんとか……」

「そうですか。良かったです」


 ギュッと私のことを抱きしめてくれる。

 えへへ。

 一時はどうなる事かと思ったが、ゆめさんが来てくれてほっとした。


「んしょ」


 私から離れて男を縛り付けるゆめさん。

 ちょっと寂しい気持ちになる。

 もしかしたら私はとっても甘えん坊なのかもしれない。


「思ったより苦戦しましたね」

「はい。あれが魔術麻薬の力なんでしょうか?」

「多分そうだと思います。となると、魔術麻薬の力は身体能力増強でしょうか……」


 腕を組み考え込むゆめさん。

 もしそれが本当だとしたらかなり厄介な物になるだろう。


「とりあえずこの人は私が連れていきますね。姫芽ちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「もう一度ギューってしておきますか?」

「……お願いします」


 ぎゅー。


 えへへ。

 あったかいゆめさんの温もりをたっぷりと感じた。


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