第3話 戦闘
常闇を駆ける。
フィジカルエンチャントをかけて建物の屋根を伝っていく。
4月の風は心地よく、嫌ではない暖かさが頬を撫でる。今は夜だが比較的暖かい。
目的地に到着。
目の前の女性に声をかける。
「こんばんは。ゆめさん」
「こんばんは。姫芽ちゃん。時間ピッタリですね」
「はい」
ゆめさんは優しい笑顔で私に声をかけてくれる。
「今回の任務はもう聞いてますね」
「はい。大丈夫です」
「そうですか。……今日は私もいますし、凌馬くんもいますので。いざという時には任せてくださいね」
慈愛に満ち溢れた笑み。さすがゆめさんだ。
「心配しなくても大丈夫ですよ」
ゆめさんは心配してくれているのだろう。なぜか分かる。何を心配しているかを聞くのはやめておこう。
「それでも、心配なものは心配なんですよ。大事な大事な後輩なんですから」
不意に抱き締められる。ふわふわであったかい。
逆に心配させてしまっただろうか、頭を優しく撫でてくれる。手の感触が心地いい。
「はい、おしまい」
「え……」
ゆめさんが手を離し私から離れる。ちょっと寂しい。
「もっとして欲しかったですか?」
「う……、それは……」
心を読まれた……。心地いいから仕方ない。
「ふふっ。また後でしてあげますね」
「……ありがとうございます……」
恥ずかしい。今、私の顔は真っ赤に染まっているんだろうな……。
「では、行きましょうか。私は後ほど合流します。お好きなように行動してもらって構いませんからね」
「わかりました」
ゆめさんに別れを告げ、私は再度常闇を駆ける。
自分でも隠していた緊張はすでに無くなっていた。
私が今立っている場所はとある倉庫の屋上。
ターゲットがいると思われる場所は2つ奥の倉庫なのだが勘づかれることが嫌だったので少し離れた場所にした。
ここに着く前に一度認識阻害や防音の魔術結界が張ってあったので慎重に進む。
こんな倉庫を使うなんてどこの刑事ドラマだろうか。ターゲットは頭が硬そうだ。
次の倉庫に進む。
目の前には先ほどよりも複雑な結界。慎重に慎重に解体する。
すべて解体すると時間がかかる上に術者が解体を悟ってしまう可能性があるため一部だけを解体し進む。
「ふう……」
結界があった方がこちらとしても便利なので自分の魔力で修復しておいた。
結界を抜けたとき今まで聞こえなかった音がバッと広がる。今まで感触しか感じなかった風の音。海沿いの倉庫のコンクリートに打ち付けられる波の音。そして何か話し合ってる声。今回のターゲットたちだろうか。
それじゃあそろそろ。
目的の倉庫へ。
上に着く。少しだけ声が大きくなる。他愛のない世間話をしてるらしい。
「ラ・グラス!」
魔法を発動。私が手を振り上げると頭上に無数の氷の礫が出現。
手をぶら下げると同時に氷の礫は屋根に私が収まるサイズの小さな正方形ができるように突き刺さる。
それを礫と同時に作っておいた氷のブーツで思いっきり踏みつける。氷のブーツは砕けるどころかカーンと高い音を鳴らし礫でかたどってあった正方形を貫いた。
倉庫には無事侵入。
「なんだ!?」
相手は困惑。先手はもらっていこう。
「ふっ!」
1番近くにいた1人に回し蹴りをかます。その人は私の蹴りに耐えきれず倉庫の壁まで吹っ飛ばされる。
フィジカルエンチャントをかけているものの私にも少々ダメージが入る。普通に痛い……。
もう1人近くにいるので近づいて蹴り飛ばす。
さっきの人とは逆の壁に吹っ飛ばした。
まだ状況が理解できていなかったのか立ち止まっていたため反撃されずに済んだ。
「ラ・グラス!」
魔法を発動させ、氷の礫を生成。
いつでも周りの人達に放つことができるように体制を整える。
「私は千夜魔法機関の者です。あなた達は魔術麻薬の密輸の疑いがあります。大人しく捕まってくれますね?」
リーダーっぽい男に向かってこう言い渡した。
「なっ……。そ、そう簡単に捕まるかよっ!」
男がそう言った瞬間周りの男たちが一斉にこちらに向かってくる。その数5人。
「やっ!」
1番早くこちらに来た1人に回し蹴りをかます。体制を崩した男にかかと落とし。
「がぁ……」
男はそのまま気絶してしまった。いやいやこっちも痛いからね。
「お前っ!」
今度は2人同時に来た。流石に体術じゃ対応しきれないし足元に男が1人横たわっているから相手をしづらい。なら、
「ラ・グラス!」
後ろに下がりながら魔法を発動。
氷の礫を思いっきりぶつけてその衝撃で吹っ飛ばす。倉庫の壁に打ち付けられた男たちが動きを止める。
続けて残りの2人の元に。
走りながらある程度近くが二手に分かれてしまう。
「ラ・グラス!」
近い方の1人に氷の礫を放つ。が、もう1人の方にも気を張っているため命中しない。
「くっ……」
礫を連発。6発目でようやく命中。大きくのけぞる。
ラスト1人っ!
後ろを振り向こうとしたところで殺気を感じた。
咄嗟に腰の剣を抜き衝撃を受ける。
「うっ……」
最後の1人は鉄パイプで殴りかかってきていた。
いくら私がフィジカルエンチャントをしていても最後の1人だ。十分に時間もあったし相手もエンチャントをしているだろう。
お互いエンチャントをしてるなら私の方が力は弱いはずだから耐え切れるはずがない。
「ん……。うぅ……」
男の力はどんどん増し私の腕が悲鳴をあげる。
これ以上は……。私の腕がもたない……
あれを使うしかない!
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