第8話 幽霊のお兄さん①

 通学路、振り返るとそこにいる。

 首に、たくさんの女の人の手のあとをつけたお兄さん。

 一週間前、警察に捕まったあとに死んだ、悪い人。

 お兄さんは一週間前にも乗っていた黒い車に乗って、私をはねようとしていた。


 私ははねられたくなかったから、電信柱の後ろに隠れた。

 車は電信柱にぶつかって、止まった。何週間か前にここで事故にあった子にお供えされていたジュースやお花が、タイヤの下じきになっていた。


 事故にあった女の子は泣いていた。

「ひどい、ひどい。私のだったのに。私にくれたものだったのに」

 女の子は車に乗っていたお兄さんの足に手を当てて、言った。

「代わりにお兄さんの足をちょうだい。じょうぶで、長くて、速く走れる、お兄さんの足をちょうだい」

「やっ、やめろ! 離せ!」


 私はその隙に、走って逃げた。

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