第7話 人間のお兄さん

 通学路、振り返るとそこにいる。

 真っ黒の自動車に乗った、優しそうなお兄さん。

 一週間前から見かけるようになった。生きている人間だ。


 お兄さんは私を見つけると、車から降りて話しかけてきた。

「こんにちは。一人で帰ってるの? お家まで送ってあげようか?」

 私はお母さんから「知らない人にはついて行っちゃダメ」って言われてるから、断った。


 すると、お兄さんは残念そうに言った。

「そっかぁ。ついて来てくれたら、欲しい物なんでも買ってあげたのになぁ」

 お兄さんは帰ってくれそうもない。

 だから私はお兄さんの車を指差して、言った。

「私はいらないから、お兄さんの車に乗ってる女の人達にご飯をあげて。ガリガリにやせてて、かわいそうだから」

 お兄さんの車の中には、大勢おおぜいの女の人達が乗っていた。数えてみると、五人乗りの自動車なのに二十人くらい乗っていた。

 みんなガリガリにやせている。もう何日もご飯を食べていないのかもしれない。

 女の人達は車の中から、お兄さんをうらめしそうな目でにらんでいた。

「なッ?!」

 私が女の人達のことを言うと、お兄さんはすごくビックリした。

 おびえた様子で、車を振り返る。

 私はそのすきに、近くの友達の家に逃げこんだ。


 友達のお母さんに警察けいさつ通報つうほうしてもらい、お兄さんは逮捕たいほされた。お兄さんは大勢の女の人達を殺した悪い人だった。

 逮捕された次の日、お兄さんは首をしめられて死んだ。

 お兄さんの首にはたくさんの女の人の手のあとがついていた。

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