真実はいつも一つだけ

第38話 俺の妹がこんなに背徳的なわけがない!

 おとちゃんとの一件が一先ずの終わりを迎えた翌早朝、俺のスマホに着信が入る。

 相手は当然と言っちゃあ当然だが正義先生で、内容は昨日の一件についてだった。

 色々と鎌を掛けられたり、茶化されたりもしたが何とか説明が一通り終わると、正義先生は満足したのか早速執筆活動に入るとか言い出した。なので早々に通話を切ると、俺は考える。


 ――二度寝……にしては時間が微妙だな。太陽が昇り始めてるから眠れる自信が無いし。ならどうしよう……


 そう考えているとスマホがメッセージを受信した。

 相手は何故かキラで、しかもかなり畏まった感じの内容だった。


【拝啓、お兄様

お兄様の事とおかれましては益々ご健勝の事かと思われます。

さて、あたしに関しましては非常に大変な事態となっております。

ご相談がありますのでこれからあたしの部屋に来てはいただけませんでしょうか?

どうかよろしくお願い致します。

キラより】


 ――うん、畏まった感じではあるが、滅茶苦茶な文章だ。もしかしてテンパりながら打ったのだろうか……いや、それより相談?キラが?俺に?


 キラは悩みであれば、可能な限りは自分で解決させる質だ。というか自分で解決させないと落ち着かない質である。だから彼女が俺に頼ったのは正直言って驚きだ。


 ――内容は分からないが、まあ、聞くだけ聞いてやるとしよう。


 そう決めて部屋を出て、正面にあるキラの部屋の扉を二回ノックする。

 するとすぐに鍵が開き、静かに扉が開いてキラが顔を覗かせた。

 その表情は明らかに暗く、誰から見ても深刻な悩みを持っている事が分かるだろうって程だった。


「……入って」

「お、おう」


 ――久しぶりに入るな……


 キラの部屋は思いの外綺麗に整頓されていた。


 ――粗暴な性格から考えて乱雑な部屋になっているだろうと思っていたが、もしかして俺が来る事を見越して予め掃除でもしていたのだろうか。いや、そんな事はどうでも良いか。それよりも、だ。


 キラの頭にポンポンと右手を乗せる。


「それで、相談というのは?」

「あ、あの、その前にこれ見てくれる?」


 そう言うとキラはこちらにスマホの画面を見せた。

 そこには文章が映し出されていて、明らかに恋文だった。


【瓜生キラ様

入学した頃からあなたの事が好きでした。

一目惚れです。

この気持ちはいけない事。

だから今まで我慢していましたがもう限界です。

僕と……僕と付き合ってください。

お返事待っています。

近藤勇気】


 との事である。

 近藤勇気という人物については面識がないから何とも言えない。

 けれどこれはただの恋文。

 ならば近藤君が好きであれば告白に良い返事を出せば済むし、逆であれば断れば良いだけの事だと思うのだが、果たしてキラは何故こうも悩んでいる様子なのだろうか。


「相手はあたしと同じクラスの子……皆あの子の一人称と外見から近藤君って呼んでいるんだけど、実はあの子は……女子、なの……」

「なん……だと……?」


 ――カノン含め、俺の妹達は学園のアイドル的存在だ。だからいずれはこういう事もあるだろうとは思っていたが、まさか同性に告白されるとはな……てか僕っ娘か、これはなかなかにレアかもしれんな。是非とも会ってみたいものだ。


「あー、こほん。その前に一つ、キラはこの告白に対してどうしたいんだ?」

「もちろん断りたい……けど、近藤君はメンタルがお豆腐だから断ったらどうなるか正直分からない……だからどう断って良いか悩んでいて……」

「オーケーオーケー、つまり近藤君?がショックで死なないような断り方を考えれば良いんだな?任せておけ!なぁーっはっはっはっはっ!」


 豪快に笑いながらキラの髪をガシガシと雑に撫でてやる。

 すると一瞬、嬉し気な笑みを浮かべるキラだったが、さすがに髪が乱れるのが嫌なのか俺の腕を右手でビシッと叩き落しやがった。


「しっかし、まさかキラが女子に告白されちゃうとはな!いや、これはさすがに驚きだわ!でもお兄ちゃんとしては鼻が高くなる思いだぞ!」


 はっはっはっ!と笑いながらキラの右肩に左手を置く。


「ふんっ、こんなの迷惑でしかないわよ。そもそもあたしには心に決めている人が既にいるってのに」

「へぇー、それって誰なんだ?」


 俺が訊ねると、キラは右肩に置かれた手を左手で掴んで、それを自らの左胸へと移動させ、そのまま豊満な胸を掴ませる。


「んもう、分かってるくせに!」


 そして普通の男なら今頃落ちているだろうってぐらいの妖艶な笑みを浮かべた。


 ――こ、コイツ実の兄を誘っていやがる!?ガチの変態だ!!


「い、いや、だから俺とお前は実の兄妹だから付き合うとかそんな事出来るわけがないだろ。そ、そもそも近親〇姦とか普通にあかんから。てかいい加減ブラコンは卒業しような!」


 と、偉そうに言っている間も俺の手は勝手にキラの胸を揉んでいる。

 まるで右手が独立して意思を持ったみたいに歯止めが利かない。


「お兄、体は正直だよ。そろそろ素直になったらどうかな?とあたしは思うのだけれど……ひゃんっ!?」

「へ、変な声を出すな!俺がお前に如何わしい事をしているみたいではないか!」


 俺は決してそんな事はしていないし、するつもりもない。だがどうやらキラの言う通り体というか左手は正直らしい。どうしてもキラの胸を揉んでしまう。


 ――くっ、凌○系同人誌の名台詞『口では嫌々言っているが体は正直だぜぇー?』の深淵に迫る事が出来たような気がする。でもこんなシチュでってのはさすがに無いだろうよ……


「……こ、殺せ……いっその事殺してくれ……こんな生き恥を抱えたままお前と暮らしてゆく事はもう出来そうにない……」

「うふふっ、じゃあ今日はここまでにしておいてあげゆー」

「あっ……」


 キラが俺の手を払いのけた事でやっと俺は恥から解放されるのであった。


「あらあら、そんな切ない表情を浮かべちゃって、そこまであたしの胸の触り心地が良かったのでしょうかー?」

「ふ、ふんっ、べ、別にそういうわけじゃないんだからね!それより兄妹である以上結婚は出来ない。とっとと俺の事は諦める事だな!ぶぅわぁーっはっはっはっ!」


 そう言って踵を返し、キラの部屋を出る。そして最後に「相談の件は俺に任せておけ!」と言って扉を閉め、自分の部屋へと戻るのであった――と行ければまだ良かったのだが、その途中、具体的には自部屋の扉を開けようとノブに手を掛けた瞬間、カノンの部屋の扉が開き、その隙間からカノンが顔を覗かせた。

 その表情はとても穏やか。が、額にはぶっとい血管が浮かんでいるのだった。


 それからそのままカノンの部屋に拉致されて倫理と背徳について小一時間説教をくらってしまう俺でしたとさ。とほほ――

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