第35話 修羅場?
「はあ……はあ……はあ……」
息を切らしつつ、なるべく素早く部屋の中を確認する。
するとすぐに正面にいる不審な男に気付く。
その足元にはおとちゃんが転がっていて、あられもない姿になっている。
「ん~~!んん~!!」
俺と目が合うや、おとちゃんは涙を流しながら声にならない声を張り上げる。
察するに、どうやら危機一髪ではあるが、かなーりギリギリの所だったらしい。
一先ず安堵の息を吐く。
それから男をキッと睨み付ける。
「ぶ、ぶひぃぃぃぃ!!おおお、お前!なな、何でここが分かった!?」
うわぁー、ぶひぃー!とか本気で叫ぶヤツ、本当にいたんだな……感動すると同時にドン引いてしまいますわぁ……
そう思うと、自然と右頬が引き攣ってしまう。
が、即座に両頬を両手で挟んで強引に矯正すると、真顔になる。
「おい、今すぐおとちゃんを解放しろ。でないと通報するぞ」
「つ、通報だどぉ!?ぼぼぼ、僕とおとちゃんは……そそ、その、あ、遊んでいただけなんだぞぉー?」
いやいや、そりゃ無いですわ。だっておとちゃん泣いてますやん。遊びでそこまで涙するわけないやろ……って、何で俺は変な喋り方になってるんだよ!
あー、何か色々とツッコミどころあり過ぎて困るわ。
てか何だよあの男……何でそこまで執拗に自分の股間をにぎにぎしてるの?なんか怖いんですけど。
それに、違和感のようなものを覚えるのだが、これはどうしてなのだろうか?
「……ん?」
一瞬、ほんの一瞬だが、おとちゃんの目がハートになったような気がした。
でもこんな状況でそんな事になるはずがないので、やはり気のせいだろうと思う事にする。
「おおお、お前!こ、こ、ここは取引しないか?」
それに何だこの男の弱気さは……しかしどんな取引なのかは気になるな……
「取引?どんな取引だ?」
「ささ、三人でたた、楽しまないか?」
三人で楽しむ……三人で……つまり……3ピィ~!?
な、なんという魅力的な単語!?
だ、だが、その中にあの男も含まれるのか……それはさすがに――
「無いわぁ……」
プレイ中にあんなブサ男の顔を見てしまったらさすがに萎える。
その経緯を想像するとどうしても表情がげんなりしてしまった。
「ぶひっ!?な、何故だ!?」
「いや、だって、プレイ中にあんたの顔とか見たら普通萎えるっしょ……ねえ?」
あまりのげんなりさに思わず共感を求めるように後半疑問形になってしまったが、コホンと咳を払い、気を取り直す。
「まあ、それはそれとして……覚悟ぉー!!」
叫びながら男との距離を一気に詰める。
幸い、男は両手に何も持っていない。
つまり凶器となり得るものは一切所持していない。
それならこちらにもやりようはある。
それに、男が喋る度におとちゃんに唾液の飛沫が掛かっているのだが、これ以上おとちゃんの肌を汚してはいけないと思うので、とにかく男からおとちゃんを離したい。
故に、俺はそのまま男に体当たりを仕掛ける事にした。
「くうらえええええええ!!」
「ぶっひぃー!?」
体当たりは無事に成功した。
男は勢いに飛ばされ、後回りに二回転して壁に衝突する。
その隙に俺はおとちゃんの口を塞いでいるガムテープを剥がし、両手を縛っている鎖を弄り始める。
「おとちゃん、待ってて。すぐに何とかするから!」
「スーたん、助けに来てくれたんですね!」
いや、だから『スーたん』言うなし。
そう思いつつも、おとちゃんを安堵させる為にニコッと笑って見せる。
とは言ってもその笑みが引き攣っていたのは言うまでもない。
「す、すす、スーたん……?スーたんだと……?」
元祖スーたんの目がカッと開かれ、充血した眼がおとちゃんを睨む。
「おお、おい、雌豚!お前、ぼぼ、僕と言うものがありながら他の男をスーたん呼ばわりするなああああ!!」
そう言って男は近くに落ちていたカッターを右手で拾い上げ、おとちゃんに襲い掛かる。
――マズい!このままでは!
咄嗟におとちゃんと男の間に割って入り、近くに武器になりそうなものはないか探す。が、それらしきものは見当たらなかった。
と、ここでふと愛斗さんに渡されたものの存在を思い出し、右ポケットから取り出してそれの栓を抜き、男の方へ放り投げて目を瞑る。
次の瞬間、投げたブツがカッ!と青白く光り出し、室内を眩いばかりに照らす。
「ぶっひぃぃぃぃぃぃ!?」
――5、6、7、8、9、10!!
十秒経って目を開ける。
ブツは既に光量を失っていて、辺りは薄暗くなっていた。
俺はおとちゃんの背後に回り込み、両脇を抱えて部屋を出る。
と、同時に「愛斗さん!今です!!」と合図。
直後、俺達と入れ替わりに愛斗さんが雄叫びを上げながら部屋に突入した。
愛斗さんには元から部屋の外で待機してもらっていた。
その理由は二つある。
まず、俺はなるべく自分だけの力でおとちゃんを助けたかった。
何せ、いくら協力してくれるとはいえ、愛斗さんはこの件に関わりはない。
それに警備料とかいくらするか分からないしな。
次の理由は、保険だ。
犯人が逃げようとした時の事を考えて唯一ある出入口の前で待機しておいてもらっていたというのもある。
とまあ、こういう経緯からなのだが、いざ出番となった瞬間の愛斗さんの雄々しさには少しだけ憧れのようなものを感じた。
「ごるぁ!てめえ!大人しくしやがれ!!」
「ら、らめっ!?し、しょこはああああああ!!ぶっっひぃぃぃぃぃぃ!!」
それからものの数秒で事態は沈静化され、室内に戻った俺は男から、おとちゃんの手足を縛る鎖を繋いでいる南京錠の鍵を受け取り、無事おとちゃんは解放されるのであった。
で、こんな事をやらかしたんだ。さすがに通報せざるを得ない。というわけで警察に通報しようとした所でおとちゃんは言う。
「ごめんなさい……彼を……許してあげて……」
と――
「「……は?」」
同じタイミングでそう言うと、俺と愛斗さんは互いを見て口をあんぐりと開ける。
そして視線をおとちゃんに戻すと、先に俺が口を開く。
「いや、許してあげてって……おとちゃんは何をされたか分かってるの?」
「分かってます……でも、彼は悪くないの……悪いのは、そう!彼をダメ男にした私なんです!!それにこれは仕組まれた事……」
「「仕組まれた事……?」」
何を言っているのかよう分からんのだが……
そう思っていると、突然部屋の明かりが点いた。
直後、部屋の最奥に置かれたテーブルの陰からカメラを持った男性と【大成功!】と書かれた看板を持った女性、というか正義先生が姿を現す。
「はい、どっきり大せーこー!!」
「「……は?」」
再び俺と愛斗さんは口をあんぐり開けて互いを見る。
そして正義先生に視線を戻す。
「あらあらぁー、何のこっちゃと言うかのような表情を浮かべちゃってるわねぇー!」
「いや、まあ、はい」
全く以て訳が分からん。
それ故に呆然としてしまう。
そんな俺を、キャハハッ!とあざ笑うと正義先生は説明を開始するのであった。
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