第26話 そして結末はこうなるのであった

「キラー!カノンー!早く行くぞー!」

「ちょっと待ってー!」

「待ってくださいお兄ちゃん!」


 妹達より先に家を出て、二人を急かす。すると二人もすぐに飛び出るように家を出た。そしてキラはこちらに駆けて来て、カノンは身を翻して鍵を掛ける。


「早いよお兄!それじゃあ女の子に嫌われるよ?」

「待て、どういう意味だそれは?」


 早いと女の子に嫌われる。それではまるで夜の事のように思えるのだが、それは気のせいだろうか?いや、キラの事だ。きっとそのとおりなのだろう。何せブラコンの変態なんだからな。俺の腕時計で自慰行為を行うぐらいだし。

 そしてその考えは当たっていたらしく。


「んもう!お兄のエッチ!」


 キラは頬を朱に染めて言うのであった。

 そんなキラの頭頂部に軽くチョップを食らわせる。するとキラは「あいたぁ!?」と大袈裟に叫んで両手で頭を押さえた。


「うぅー……お兄のバカ!エッチ!おっぱい魔神!大っ嫌い!と思わせて……大好き!!」


 罵倒した後、急にデレて俺の右腕に抱き付くキラ。彼女にはツンデレの才能があるのかもしれない。だが朝倉程ではないので何も感じなかったのは言うまでもない。


「あー、はいはい。大好き大好き。お兄ちゃんもキラが大好きだよー。だからとっとと離れろ、暑苦しい」

「酷い!?これはAVよAV!このAV男!!」


 それを言うならDVだぞ妹よ。

 まともに突っ込みを入れたらきっとキラは調子に乗る事だろう。それは疲れるだけなので、俺は心の中で突っ込みを入れ、口では言わない事にした。

 それを不満に思ってか、キラは頬をプクリと膨らませてこちらをジトーッと睨み付ける。が、それはほんの数秒の事で、カノンが鍵を閉め終えてこちらに来ると、すぐに真顔に戻った。


「それじゃあ行こっか!」

「「おー!!」」


 俺達がどこへ行くのかって?そんなの決まっているじゃないか。これから和樹を迎えに行くのだ。

 最終的に有罪ではあったものの、和樹が十分反省している事もあり、情状酌量で随分と裁判員達は悩まされたらしいが、結局は先日行われた裁判で保護観察処分が決定した。その結果に俺が落胆したのは言うまでもないわけだが、これは仕方のない事である。

 それに和樹が結果に納得しているのだから、俺には文句を言えない。ただその結果を受け入れるのみである。

 で、ここで誰が和樹の保護者になるのか?という話になる。

 聞いて驚け。何と正義先生となった。

 なにゆえそうなった?と誰もが思うだろう。だが答えは簡単だ。未成年であるが故に俺は保護者になれない。それでどうにか方法は無いかと考えた結果、俺はとある答えを出した。それは正義先生に和樹を任せるというもの。で、俺は正義先生に土下座で頼み込んだ。そのあまりの必死さに彼女が感銘を受けて引き受けてくれた。まあ、彼女が引き受けた最もの理由は、俺が突き出した交換条件だったのだろうが、それは考えないでおくとしよう。黒歴史になりそうだからな。

 因みに、交換条件が何だったのかと言うと、それは正義先生と一夜を共にするというものだった。更に因みに言わせてもらうと、その際、俺と正義先生はエロい事は一切しなかった。ただ、同じベッドで横になり、仕事の話をしただけだった。童貞心を弄ぶ悪戯は何度もされたんだけど。でも本当にエロい事は何もしていない。


 とまあ、そんな話はどうでも良いとして、何故俺達がこれから和樹を迎えに行くのかという話をしよう。

 その理由は、単に正義先生が缶詰め状態を食らって、和樹を迎えに行けなくなったからだ。

 大事な日に一体何をしているんだあの人は、と思う人もいるだろう。けれど彼女が働かないと和樹と朝倉が生活出来なくなるのだ。そう思うと誰も彼女を責める事は出来ないはずだ。

 とまあ、俺達が和樹を迎えに行く理由はそんな感じである。


 そしてここからは和樹の母親の話だ。

 あの日、自分は死んでしまうと思っていた彼女は、救急車の代わりにパトカーに乗せられて逮捕された。

 最初は嘘を吐いたり、和樹に全ての罪を押し付けようとしていた彼女だが、最終的には罪を認めたらしい。犯した罪の数は計三十三件。殆どが詐欺と窃盗だった。その中で最も重かった罪は、やはり和樹に対する殺人未遂だ。先日裁判があったのだが、その時に出た判決は有罪で無期懲役だった。(彼女は『殺意はなかった』と尋問の時に話していたが、結局それは認められなかった)

 その判決を聞いて、彼女が一生社会に出て来ない事を切に願ったのは言うまでもない。が、今となっては、ちゃんと更正してくれるのなら出て来ても構わないような気もしている。

 まあ、結局は彼女次第という事だな。

 てなわけで、彼女は既に刑務所へ収容され、今は罪を償っているのでした――っと、彼女の話はもうここまでで良いだろう。






「お兄、まだー?」

「ねー」


 拘置所に到着した。俺はちょっとした手続きを行っていた。ただ俺の身分を証明する為の手続きなのだが、やや時間が掛かっている。そのせいで若干キラとカノンの機嫌が悪そうだ。俺の後ろで椅子に座りながら激しく貧乏揺すりをしている。


「そろそろ終わるから待ってろ」

「「ちぇー」」


 不満げに唇を尖らせる二人。それを見て、受け付けのお姉さんが苦笑した。あまりの恥ずかしさに俺も苦笑せざるを得ない。


「どうぞ」


 最終手続きである署名をした後、書類をお姉さんへ。するとお姉さんは確認作業を始めた。

 背後を見ると、相変わらず妹二人が貧乏揺すりをしていた。

 お前らいい加減大人になれよ……


「お待たせしました。手続きは完了です。そろそろ来ると思うのでもう暫くお待ちください」

「はい」


 そう返事して妹二人の下へ。


「もう来るの?」

「あぁ、だからもう少しだけ待ってろ」

「はーい」


 というキラとの短いやり取り。

 うっ、急に尿意が……

 すぐ近くにトイレはある。だが和樹と再会してから入った方が良い。それは分かっている。分かっているのだが、和樹が来るまで待てそうにない。


「すまん、ちょっとトイレ行ってくる」

「「えっ?今行くの?」」

「すぐ戻って来るから」


 そう言ってトイレの方へと歩を進める。背後からキラの「あれはオ○ニーね」という馬鹿にしたような声が聞こえてきたので、後でアイツには恥ずかしい思いをさせてやるとしよう。

 で、トイレに入り、おションをしていると……


「兄ちゃん、ええ、ケツしとるのう」


 という物騒な声が背後から聞こえる。一瞬、そのまま掘られる恐怖に襲われ「ひぃっ!?」と悲鳴を上げてしまったが、聞き覚えのある声だったので安堵の笑みを浮かべる。


「変な悪戯は止めような、和樹。それとおションをしながらで悪いが……おかえり」

「ただいまです……兄貴!」


 飛びっきりの笑みを浮かべる和樹。

 感動の再会がトイレになるって……最悪にも程があるな。

 そう思っていると……


「ところで兄貴……」

「ん、どうした?」

「ここで抜きますか?」

「……は?」

「『は?』じゃありませんよ。僕は兄貴の性奴隷なんですよ?」

「いや待て、だからってこんなところで――」

「えいっ!」


 ハート交じりの声音でそんな掛け声を出して、俺のズボンを勢い良くずり下ろす和樹。


「ちょっ!?」

「あっ、やっぱりここで兄貴のア○ル処女を奪うというのも……ウホッ!」

「アッーー!!って、違う違う!マジで止めろ!」

「さあ、兄貴!会えなかった分だけ僕への思いが強まったでしょう?だからその分僕をめちゃくちゃに――」

「だ、誰かー!!助けてくださーい!!誰かー!!へ、変態に犯されりゅぅぅぅ!!」


 全力で叫ぶ俺と、全力で俺にじゃれる和樹であった。







 その後、当然の如く沢山の人に怒られた。それからすぐに正義先生の家に向かう事にした。先日、彼女と一夜を共にしたのは彼女の家でだったので、既に住所は分かっている。後はその家に和樹を送るだけなのだが、正義先生は今、缶詰めをくらっている最中だ。彼女が必死になって執筆活動をしている最中に、その邪魔をするのは気が引ける。なのでその確認の電話を入れる事にした。


『はーい……あなたの天使……正義先生ですよぉ……』

「うわっ!?」


 まるでゾンビの呻きのような低い声に思わず驚愕。


『どうしたの……?アへ顔先生……』

「今、和樹と一緒にいるのですが、そちらへ向かっても大丈夫ですか?」

『引き渡し……もう終わったのね……良いわ……連れて来て……だから膝枕を要求するわ……』

「…………」


 まあ、正義先生には和樹の件での借りもあるし、これぐらいは良いかもしれないな。


「良いですよ」

『うおっしゃあああああ!!滾って来たあああああ!!』


 あまりの声の大きさに反射的に受話器から耳を離す。


『じゃあ三分以内に来てね、アへ顔先生!もし一秒でも遅れたら妹さん達に恥ずかしい秘密をバラしちゃうぞ!』

「ちょっ、待っ!!」


 ブツッ、ツーツーツー……


「あのアマ!!ふざけんな!!」

「兄貴、どうしたんですか?」

「会話をしている暇は無い!皆、走れーーーー!!」








 俺達は全力で走った。だが正義先生の家に着いたのは、通話が切れてから五分後の事だった。なので正義先生が宣言したとおり、俺は恥ずかしい話を妹二人と義弟にバラされた。因みにその恥ずかしい話は、一夜を共にした時、俺が童貞心を弄ばれて狼狽えていたってものだった。三人に爆笑されて俺が死にたくなったのは言うまでもない。


 で、現在俺は正義先生に膝枕をしていた。他の三人は仲良くケーキを作っている。和樹の釈放を祝う為だ。


「いやぁー、アへ顔先生の膝枕はかったいなぁー!」

「筋肉質って言ってください」

「見た目はひょろっちいのにねぇー」

「黙らっしゃい!」


 正義先生の額に軽くしっぺを食らわせる。すると正義先生は嬉しそうに「きゃはっ!」と笑った。

 あっ、何か可愛い……って、俺は何を考えているんだ!そんな事より……


「あの、本当にありがとうございます」

「和樹君の事かい?」

「はい。正義先生が居なければきっと和樹は児童養護施設へ送られていました」

「そうだろうね。だからわたしは君達の救世主と言えるわけだ」

「そのとおりです」


 そう、本当にそのとおりだ。この大き過ぎる借りは一夜を共にするだけでは返せない。だからこの恩はいつか何らかの形で返さないといけない。例えば正義先生と結婚……

 そこまで考え、気が重くなってきたところで、正義先生は言う。


「あっ、別に恩を感じる事はないよ。だから代価として結婚しないといけないとか考えなくても良いから」

「何故俺の考えが分かったんですか?もしかしてあなたはエスパーでしょうか?」

「はっはっはっ!アへ顔先生の考えている事は何でも分かるのだよ!」


 やはりエスパーか。


「それで、どうして考えなくても良いんですか?」

「いやだって、既にその代価は貰っているではないか」

「へ?」

「小説のネタにさせてもらっているでしょ?それにアへ顔先生のおかげでパルちゃんとの仲直りも出来たし」

「確かにそうかもしれませんけど……でも!」

「あっ、じゃあこれならどうかしら?来月、あなたの時間をわたしがもらうってのは?」

「……どうしてですか?」


 俺が訊ねると、正義先生はニヤリと笑った。そして「それはだね」と言って語り始める。

 結果、俺は自分の来月の時間を全て正義先生に捧げる事にしたわけだがそれは第三章へと続くのであった。


 こうして和樹の件は無事解決した。

 彼はこれから色々と苦労をする事になるだろう。

 でもそれ以上に幸せになれるはずだ。

 いや、俺が彼を幸せにしてみせようと思う。

 そう、必ず――


 ――第二章、完――

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