第16話 妹にこんな事を言わせる兄って如何なものだろうか

 俺の顔を踏みながら息を荒げて頬を紅潮させる和樹。一見して妖艶な女性だが実の所、性別は男である。

 分かっている。それは充分に分かっているが、何故だろうか……俺の下半身が次第に固くなり始めている。

 嗚呼、和樹がいとおしくて仕方がない。抱き締めたい……というか何だこの足裏の心地よさは……それに顔を踏まれているというこの状況……何て興奮す――


「――って、何でやねん!」


 和樹の右足首を両手で掴んでこれ以上踏まれないよう俺の顔から離そうとする。が――


「えい!」

「ふんむっ!?」


 体重を掛けられ、和樹の右足を退かす事が出来ない。


「兄貴、僕を女王様と呼んでくれても良いのですよ?」


 そう言って和樹は愉しそうにクスクスと笑う。それはもうドS丸出しで。


「い・や・だ!!てか踏むのを止めろぉっ!!」

「えー、でも兄貴嬉しそうじゃないですかー?」

「嬉しくねえよ!!」

「とか言っちゃってぇー、ってるんじゃないですかー?」

ってねえよ!!」


 目を瞑り、下半身に意識を集中させて感触で確認した後、そう返す。因みに本当に勃起はしていない。


「はあ……はあ……な、何故でしょう……無いはずの子宮が疼く……」


 えっ!?何言ってんのコイツ!?


「あ、兄貴……僕、相手が兄貴なら男同士でも行けそうです……」

「行かなくて良いから!行かなくて良いからっ!!」

「そろそろ刺しても……良いですか?」

「良くねえよ!!てかビジュアル的には刺されるのはお前だから……なっ!!」

「わひゃっ!?」


 最後に気合いの一声を出しながら、何とか和樹の右足を顔の左に離す事に成功したので、全力で上体を起こし、仕返しと言わんばかりに和樹を押し倒してその腹に跨がる。


「さて、これで形勢逆転――だっ!?」


 和樹が頬を赤くし、口に手を当てて左を向いていた。その仕草はまるでこれから一戦交える直前で恥じらっている乙女であるかのようだ。

 あまりの可愛さに思わず胸がトキメキ、キスしたくなる。期待とワクワクでゴクリと固唾を飲み込んでしまうぐらいだ。

 ま、待て待て!和樹は男だぞ!男に欲情してどうするんだよ!!

 即座に頭を振って正気に戻る。そして和樹の上から飛び退くと、大きく深呼吸して興奮で荒くなった息を整える。で、ある程度落ち着くと――


「お、お前どういうつもりだよ!?俺の寝込みを襲って何がしたいってんだ!!」

「ただどうしても居候したいだけです!」

「単刀直入に言っちゃったよ!?」

「ええ、それが僕の取り柄ですから」


 右手の親指をグッと突き立ててニカッと爽やかに前歯を見せる和樹。俺的にどうでも良い取り柄にここまで自信を持っているヤツを見るのは初めてだ。思わず呼吸を忘れる程である。


「お、おう……そうか。それは凄い取り柄だな。だがいくら居候したいからってこれは間違っていると思うぞ。それに居候させるかさせないかは俺だけで決められる事じゃない」

「チッ!」


 えっ!?舌打ち!?


「というのは冗談で……分かりました。素直に言う事を利く事にします」


 眉間に皺を寄せて明らかなる不服顔。全然冗談でない事が容易に分かる。彼が有言実行してくれる事を切に願う。


 それから和樹を部屋から出して早々に就寝。で、翌日の朝になり――


「むぐっ!?」


 再び顔面を足で踏まれる。昨日も踏まれたんだ。それにまだ妹達は帰って来ていないはず。という事はこの犯人は――


「おいコラ和樹!お前はまた……ん?」


 目を開けると今度は足が二つあった。しかも穿いている靴下の色が両方とも違う。右がピンクで左が緑だ。

 これを察するに、俺の顔を踏んでいるのは二人だ。そしてこの二人というのは恐らく……

 二つの足をそれぞれの手で掴み、二枚扉を開けるようにゆっくりと退かす。するとすぐにニッコリと笑みを浮かべた双子が目に映った。一瞬、上機嫌だと思い安堵したが、よくよく見ると二人のこめかみに太い血管が浮かんでいる。それに上機嫌の時に他人の足を踏む事は普通はあり得ないので、すぐに怒っているのだと悟った。


「お、おはよう……」

「「お・は・よ・う!!」」


 俺が苦笑しながら挨拶すると、二人は怒声を浴びせるかのような声量で挨拶を返した。


「それでお兄、これはどういう事かな?」

「お兄ちゃん、説明してください」

「ヒッ!?」


 ダンッ!と俺の顔の両サイドに足を置いて訊ねる二人。その瞬間、俺の鼓動は心臓に痛みを覚える程大きく跳ね上がった。


「こ、これ、とは?」


 俺の問いに二人は俺の右に目を向ける事で答える。

 その行動で俺は右腕に何かが絡み付いている事に気付いた。体温のような温かさ、それと首に掛かるそよ風と寝息のような小音。

 ……まさか!?

 やっと二人の言う【これ】が何なのかに気付き、それを確認する為にぎこちない動きで首を右に動かす。


「……はうっ!?」


 やはりというかそこには俺の右腕に抱き付いて眠る和樹がいた。


「「それで?」」


 声を揃えて説明を求める二人。


「ひゃうん!?兄貴!そんな激しくされちゃ僕壊れちゃいますぅぅぅ!!」


 で、唐突に和樹が口にした如何わしい寝言を聞いて、今までの笑顔を般若のようなものに変える。

 キラに両手で胸倉を掴まれ、無理矢理上体を起こされた。そして相変わらずの表情で訊ねるというか凄まれる。


「これは無いと思うな?これは無いと思うなぁ!?」

「ま、待て!お前は重大な勘違いをしている!だから落ち着けって!!」

「落ち着く……?んなの出来るかぁ!!手を出すならキラにしてよ!キラにしてよぉぉぉ!!」

「えっ!?何言ってんの!?てか妹に手を出せるかぁ!!」

「妹だけど愛さえあれば関係ないよねっ!!」

「あるわぁ!!てか【おにあい】みたいに言ってんじゃねえよ!」

「もう分かった!!」


 俺の寝巻きのワイシャツを両手で掴むキラ。そしてボタンを弾き飛ばしながら強引に俺を剥き始める。


「ちょっ!待て!止めろ!!」

「お兄が悪いんだからね!!」


 完全にワイシャツを剥ぎ取ると、今度はズボンに両手を掛ける。


「待て!お前まさか!?」

「グヘヘヘ!そのとおりよお兄!今からお兄を……グヘヘッ!」


 そしてズボンを勢い良く下ろそうとした所で慌ててキラの両手首を掴み、これ以上ズボンが下がらないようにする。


「グヘヘじゃねえよ!そうだ、カノン!助けてく――って!お前もか!!」


 助けを求めるべくカノンを見ると、彼女はワクワクと目を輝かせながら俺の股間を見ていた。


「てかカノン!お前は俺を生理的に受け付けないんだろ!?それなのに俺の股間に興味を示してどうする!?」

「大丈夫!触れなければ!」

「えっ!?そうなん!?って、違う違う!助けろって!」


 が、既に俺の言葉は耳に入らないらしく、カノンはもうカッと目を見開いて股間を凝視するだけだった。

 キラの力が強過ぎてどんどん俺のズボンが下がってゆく。

 そして茂みが姿を現すという所で和樹がパチリと目を開けた。


「これは一体……」

「和樹!助けてくれ!!」

「…………はっ!これはいつもの朝の風景なのですね!それなら僕も加わらないと!!」

「違ぇよバカ!!分かった!家主権限でお前を居候させてやる!だから助け――」

「はあはあ……あああ、兄貴の息子さんですか……可愛いのか厳ついのか……興味がありますね……」


 ダメだコイツ!沸いてやがる!!


「お兄の……お兄のおてぃんてぃんがもう少しで……」

「ワクワク……」

「兄貴……はあはあ……」


 それから俺は已む無く剥かれる事となったわけだが、三人が俺を犯す事は無かった。それは俺の大砲を見て全員腰を抜かしたからだ。その際キラの口から『こんなの入るわけがない……』という台詞が出たのは男として誇らしい。しかし妹にそんな事を言わせる兄って如何なものだろうかと思うと何とも言えない。

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