新ヒロインは隠し子!?

第14話 新ヒロインは隠し子!?

 俺の名前は瓜生昴。高校二年生、童貞、彼女居ない歴=年齢。そんな残念な俺は、同人誌作家をしている。しかもかなりの人気者。なのでそれなりに忙しい。締め切りが近くなればそれはもう……


「ヒィー、ヴー……ヒィー……ううぅ~……眠い……眠りたいよぅ~……あっ……F○ISKが効かない……眠○打破も……もう駄目ぽ……」


 イラストを描きながらゾンビみたいに呻いて弱音を吐きまくったりなんかもする。

 けれど生活がかかっているので……


「……せいっ!うぎゃああああああ!!」


 自分の手の甲にペンを突き刺したり……


「……ふんっ!いぎぃぃぃぃぃ!!」


 太股をつねって悶絶する事で眠気を覚ますなんてことも度々。

 えっ?辛くないかって?そりゃあ決まってる。


「そ・し・て!ヒロインの喘ぎ声は……ひぎぃぃぃぃぃぃ!!」


 描きながら絶叫する程楽しいってものだ。

 と、そんな至福とも言える一時を過ごしていると、唐突にピンポーン!というチャイムが来客を告げる。


「今日って誰か来る予定あったっけ?」


 友達の居ない俺に来客があるとは思えない。だからキラかカノンの客である可能性が高い。もしくはその他。例えば宗教とかテレビの集金とかだろう。


 もう一度チャイムが鳴る。

 ふと、作業机の右横に置かれた目覚まし時計を確認すると、時刻は午後九時を回っていた。


「……そう言えば」


 今朝カノンに『私とキラちゃんは今日は外泊します』と満面の笑みで言われていた事を思い出す。


「……仕方ない」


 相手が誰なのかは分からないが、大事な用件で訪ねて来たのかもしれない。そう思うと出ざるを得ない。

 どうせ俺以外は誰も居ないし、妹二人にも仕事の事はバレているので、パソコンはアへ顔を描いている途中のままで部屋を出る。そして玄関へ行き、扉を開ける。


「どちら様です……ぅ?」


 中学一年生ぐらいと思われる身長の、黒いバックパックを背負い、青の野球帽を被った、長い黒髪の小柄の少女がそこに居た。しかもバケツをひっくり返したかのような大雨に降られ、ずぶ濡れの状態だ。


「だ、大丈夫……?」

「…………」

「タオル借りる……?」

「…………」


 無言。俯いて何も言い返してくれない。

 ビンタしたら返答してくれるか……?いや、いくら無視されるのが嫌とは言え、それはさすがに……ならどうするか……

 うーん、と唸り右手で後頭部をボリボリと引っ掻く。そして――

 よし!やっぱりビンタしよう!

 と決め、右手を振りかぶった所で少女が顔を上げて言う。それはもう恋い焦がれた人と逢えたかのような表情で。


「やっと逢えましたね……兄貴!」

「……は?」


 兄貴?俺が?コイツの?何で?そもそも俺にはあの二人以外に妹など居ないのだが?それなのにどうして目の前のこの少女は俺を『兄貴』と呼んだ……?もしや!?


「……新手の詐欺かっ!」


 これは【オレオレ詐欺】ならぬ【兄貴兄貴詐欺】に違いない!これからどうやって俺を騙そうとしているのかは分からないが、きっとコイツは俺を――延いては俺達家族を地獄に落とそうとしているはず!それなら俺はこの家の大黒柱としてこう言うしかない!!


「えぇーい!この詐欺師めっ!どれだけ可愛い成りをしていてもこの俺を騙す事は――っ!?」


 言いながらズビシと少女を指差したところで、その少女の目から大粒の涙が零れた。


「……酷い……酷いです兄貴……僕がどれだけ兄貴と逢いたいと思っていたか…………っ!」


 そして少女はカッと目を見開き、何を思ったか背負ったバックパックを降ろし、チャックを開けて中身を漁り、そこから封筒を取り出し、その封筒をこちらに差し出す。


「これ、僕の母上からです!」

「母上……?」


 封筒を見て、少女を見て、封筒を見た後、それを右手で受け取り、封を開けて中を覗く。するとそこには四つ降りにされたA4サイズの紙が三枚入っていた。

 紙を取り出し、広げて内容を読んでみる。最初は慣用句から始まり、六行目になって初めて本題に入る。それによると、目の前にいるこの少女、広瀬和樹ひろせかずきは俺の腹違いの妹――つまり親父とその不倫相手の子供らしい。で、色々と端折り、これから和樹が大人になるまで面倒を見て欲しいとの事。その理由は大病を患ってしまったせいで和樹の面倒を見る事が出来なくなったから。だから何卒宜しくお願いします、と書かれている。


「…………っ」


 紙を僅かに下にずらして和樹を見ると、彼女は真剣な、それでいてすがるような目でこちらを見上げていた。


「お前の母親と話がしたい。電話番号とかは分かるか?」

「…………」


 和樹は視線を下に向け、表情を曇らせながら首を横に振る。そして再びこちらを見上げて濡れた瞳で言う。


「母上は……もう……」


 俺はそれだけで全てを理解した。つまり彼女の母親は既にこの世に居ない。だから和樹は俺を頼る形でこの家を訪ねたのだと――


「……そうか。ごめん、変な事訊いて……」

「……いいえ、それよりこちらこそごめんなさい。急に訪ねて……」

「あ、あぁ……」


 それにしてもどうしたものか……

 和樹がここに来た理由は分かった。しかしこのまま家に入れるというのもどうかと思う。

 だってそうだろう。もしこのまま家に入れてみろ。それはもう終わりの始まりだ。

 まず、俺はウェルカムだから良い。だがキラとカノンが帰って来たら一体どうなる事か。きっと大乱闘が始まる。確実にどちらかに『この泥棒猫を捨てて来て!!』とか言われる。詳細な流れとしては――


 二人が家に帰って来ました。和樹が自己紹介します。二人も自己紹介します。続いてこの家でお世話になる事になったと言いました。はい、確実に妹二人はキレます。そしてその理由を訊ねます。和樹は手紙を二人に見せます。で、妹二人はどちらからともなく手紙を破きます。それから和樹との言い合いになり、言葉でボッコボコにされた和樹が泣き出し、最終的に二人のどちらか、もしくは二人が俺を食い殺そうとするかのような形相で言います――『この泥棒猫を捨てて来て!!』――てな感じだ。


 ひっじょぉー……に!面倒である。それを防ぐ為にはどうすれば良いか……やはりお引き取り願うというのが最良の手段かもしれ――


「へくちっ!」


 和樹が可愛い声でくしゃみをした。

 彼女は今、雨のせいで全身ずぶ濡れの状態だ。そのせいで体が冷えたのだろう。よくよく見ると、小刻みに震えているし、鼻まで啜っているからきっとそうに違いない。

 このままというわけにはいかない、か。それなら仕方ない。

 そう思い、俺は和樹を家に入れる事にし、扉を大きく開けて彼女が通れる道を作る。そして――


「まあ、風呂にでも入れ。詳しい話はそれからだ」

「良いんですか……?」


 潤んだ瞳且つ上目遣い。まるで小動物ようなその仕草にきゅぅぅ、と胸が締め付けられる。

 抱き締めたい!!いや、でもそんな事をしたらきっと警戒される!最悪、警察沙汰だ!我慢、我慢、我慢……よし!我慢出来た!!

 理性に勝利し、コクコクと頷く。するとすぐに和樹の口元が綻んだ。


「ありがとうございます、兄貴!」


 そして満面の笑みを浮かべる和樹であった。そんな和樹に俺が再び抱き締めたい衝動に襲われたのは言うまでもない。


※※※※※※


 取り敢えず和樹には即座に風呂に入る事を進めた。現在、彼女はそのとおりにし、入浴中だ。が、ここで俺はとある事を思い出す。そのとある事とは、今朝カノンに『今日は外泊するから』と言われた後、付け加えるように『そう言えばシャンプーが切れたから買っておいてね!』と言われた事だ。


「……仕方ない」


 リビングのソファーに座り、テレビを見ながらそう呟くと、立ち上がって風呂場へ向かう。理由は勿論、和樹に忠告する為だ。


 脱衣場の扉前に到着し、その扉を開ける。すると――


「うわっ!?」

「きゃっ!?」


 全裸の和樹がそこにいた。


「ご、ごめ……ん?えっ!?」


 顔や髪型は女なのに何故か男性器が股間にぶら下がった和樹がそこに――

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