第12話 叔母
※※※※※※
『もしもし?瓜生君?』
電話を掛けると二コール半で朝倉は出た。その声は何故か若干気落ちしている様子だ。
もしかして俺の件でカノン達と喧嘩でもしたのか?
そんな事を考えて俺は苦笑する。
「墓掃除はどうだった?」
『そこまで汚れてはいなかったから雑草を取るだけで済んだわ。それから線香上げて今は帰りのタクシーの中』
「そうか」
『それで、あなたはもう退院出来たの?』
「あぁ、つい今しがたな」
『そう……なら例の件、今日のうちに済ませましょう』
「おう!じゃあ待ち合わせはどこにする?」
『ボンボヤージが良いわ』
「あー、あの店か……了解っす!」
『ではではー』
やる気の無い返事をすると朝倉は通話を切った。ツーツーツーという終話音が受話器に流れる。
スマホを右のポケットに仕舞う。そして俺は「よし!」と気合いの言葉を口にしてボンボヤージへ向かう事にした。
※※※※※※
「……ん?」
ボンボヤージの入口扉を潜ると、先に到着していた朝倉をすぐに発見する事が出来た。彼女は店の一番右奥の四人用席の奥側にちょこんと座っている。
朝倉がこちらに気付いて右手を振った。俺も小さく右手を振りながら席へ行くと彼女の正面の席に座る。
「よっす!三日ぶりだが元気してたか?」
「まあ、それなりに……と、言いたい所だけど事情聴取で疲れ果てたわ」
「そっか、ならその愚痴と共に事の顛末も聞かせてもらおうか」
「そうね、面倒だけどあんたも無関係じゃないからそうしてあげる」
ここで俺の前にお冷やが置かれる。
「あっ、ありがとうございます」
持ってきてくれた女性店員に会釈して礼を言う。すると相手も軽く頭を下げた。その時、女性店員の胸に目が行く。
で、でけぇな……
推定Gカップのそれを見た後、朝倉の胸を見て、はぁー、とため息を吐く。
そんな俺にジト目を向ける朝倉。
「な、何……?」
「それ、セクハラだからね」
「はて?」
「……チッ」
舌打ちし、不機嫌そうな表情で俺の右脛を何度も蹴る朝倉。
「痛いです朝倉様……止めてください」
「うっさいバカ!」
「分かった、ここは俺が奢るから許してくれ」
「……破産させてやる」
恨めしそうに睨みながら怖い事を言うと朝倉は呼び出しボタンを押した。
「覚悟しなさい」
「お、御手柔らかに……」
「……フン」
すぐに先程の女性店員が来た。それと同時に朝倉はメニュー表を手に取り、広げると注文を開始する。
「カルボナーラとサイコロステーキとフィレステーキとグリルチキンと~~」
それから後十品頼むと朝倉はメニュー表を閉じた。
「以上です、今の所は」
今の所はって……パネェなコイツ……
女性店員を見ると、右頬をヒクヒクと痙攣させていた。きっとこれをドン引きと言うのだろう。かくいう俺も同じである。
「か、かしこまりました……」
相変わらずの表情で女性店員は去って行った。
「じゃ、早速だけど……結論として、ヤツはパルへのストーカー行為とあなたへの殺人未遂で捕まったわ」
そう言って朝倉は両肘をテーブルに突いて両手を絡め、深刻な表情になる。
「捕まったのはヤツに刺されたあなたが病院に運ばれた三十分後ぐらいって警察から聞いたわ。それで、早速取り調べが始まったんだけど、やはりと言うべきかパルのせいにしていた。『あいつが俺の人生を破滅にさせた。だからあいつの彼氏を刺したしストーキングもした』みたいな感じでね」
なるほどなるほど。てか彼氏じゃないのだが?
そう突っ込みを入れそうになったが話が脱線しそうなので止めておく。
「でも最終的には反省の色を見せたみたい。出来る事なら瓜生君に謝罪したいって言っていたようよ」
「へぇー」
あれほど狂気に満ちていたヤツが随分変わったものだな。
あの男を初めて見た時の事を思い出しながらそう思う。
でもあの男だけが悪いわけではない。大なり小なり朝倉にも責任がある。
「お前はどうなんだ?」
その事について朝倉も反省しているのかを訊ねてみる。
「そりゃあ反省してるわよ。自分を嫌いになりそうになったわ。瓜生君を間接的に殺しそうになったんだし……」
「……そっか」
安堵する。もし何も思っていなかったら失望してビンタをくらわしていたから尚更だ。
「他に何か聞きたい事はある?」
「うーん……俺が聞きたかった事は粗方聞けたからもう良いかな」
と、ここでカルボナーラとチーズハンバーグがテーブルに運ばれて来る。
「カルボナーラをご注文のお客様は――」
「あっ、二つ共彼女です」
俺の返答を聞いて女性店員は二つを朝倉の前に置く。
「美味しそうね!」
チーズハンバーグがジュージュー言いながら湯気を立てている。それに肉の焼ける匂いが食欲をそそる。
反射的に大量噴出した唾を飲み込む。そんな俺を見て朝倉は威嚇するように八重歯を剥き出しにしながら言う。
「あげないわよ」
「い、いらねえよ!」
「あっそ」
フンと鼻を鳴らすと朝倉はフォークとスプーンを手に取った。そしてハンバーグを切り始める。
「話は変わるけど、例の叔母とは何時頃に会う予定なんだ?」
「これからすぐよ」
「て言うと、食べてからって事か?」
「いんや、食べながらって事」
そう言って朝倉は一口大に切ったハンバーグを口に入れる。
「う~~ん!んまぁーい!」
そして幸福そうな表情をしながら甲高い声で短い感想を言う。
「おい、何故そうなる。真剣な話なんだから普通は食べてからだろ。失礼だぞ」
「と思うじゃない?でもこれは叔母さんからのたっての希望なの」
「……なら仕方ないな」
もしかして朝倉の叔母さんは結構アバウトな人なのか?もしくは気まずくならないよう気を遣ったのか……まあ、会えば分かる事か。
ここで朝倉のスマホがピンポーン!と短く通知した。
それを自分の右側に置かれた鞄から取り出し、内容を確認する朝倉。そしてそれが終わるスマホをテーブルに置いて俺の左後ろを見る。
「う、瓜生君、叔母さんが来たわ……」
「えっ!?」
本当に来たのかを確認する為、右を向こうとしたら――
「動かないで!!」
止められた。
「ど、どうしたんだ……?」
「今、叔母さんの顔はあなたの右頬から五センチぐらいの所にあるわ。だから絶対に動かな――」
朝倉がそこまで言ったところで……
「こんにちは、アへ顔先生」
聞き覚えのある女性の声が右の耳元から聞こえる。
この声……そして俺をアへ顔先生と呼ぶ女性と言えば……まさか!?朝倉の叔母って!?
「ロリコンは正義さんが来ましたよー」
「ひゃうん!?」
正義先生に耳に息を吹き掛けられて不覚にも甲高いあえぎ声を出してしまった。
直後、他の客や店員達が一斉にこちらを見る気配を感じる。
「じゃ、アへ顔先生の膝上に失礼しまーす」
で、正義先生は俺の膝に腰を下ろす。
「……って!何で正義先生がここにいるんですか!?てか朝倉の叔母って正義先生だったんですかっ!?」
「ご名答、さすがアへ顔先生だ!君なら探偵になれるね!だから結婚してくれ!」
「しーまーせーん!!」
というやり取りをしながら俺は正義先生を退かそうと彼女の腰を掴んで持ち上げようとし、正義先生は退かされまいと更に体重を掛ける。
「おやおや、ツンデレかーい?お姉さんを萌えさせようとしてるのかなー?」
「違わい!てかいい加減退いてください!!」
「嫌でーす!」
「重いんですってば!」
「重……い……?」
正義先生の表情が凍り付いた。どうやら重いと言われてショックを受けたようだ。
そして正義先生は無言で俺の上から退くと、朝倉の右側の席に座る。
「重いって言われた重いって言われた重いって言われた……」
「な、何かすみません」
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