第20話
ラギルは炎を繰り出し、魔法剣士が水でそれを防ぐ。
バイゼルは風で、相対する者は同じく風で打ち返していた。空を飛べるバイゼルは有利であり、空から風の攻撃を仕掛ける。
魔法剣士は三人で、水、風、炎を使うものだ。
タトルも水の魔法剣士を相手に、水の攻撃を仕掛けている。
「あ、そういえば、そういうことですよね」
何度か炎を打ち出して水で消されているうちにラギルは人がどのようにして魔法を使っているが見極める。彼は腰帯から小剣を抜くと、襲い掛かった。魔法攻撃ではなく直接の攻撃。剣士は剣を抜いて対応する。けれどもラギルの狙いはその手袋にあった。
ラギルたちは手の平に直接描かれた魔法陣によって魔法を放つ。けれども、人は手袋を使う。なのでそれを失えば魔法は使えない。
バイゼルもタトルもラギルの攻撃を見倣い、同じ手に出た。そうして魔法を封じると簡単なもので、フェンデルを残して騎士たちは全滅した。
「諦めろ。フェンデル」
「それは無理ですね」
ヴァンの攻撃を受け止めて、フェンデルは反撃する。
「我らが先にセインを奪回する。それからあの宰相を締め上げて方法を聞く」
「よろしく頼むぜ」
ヴァンはタトルに答えたが、フェンデルがそれを止めようと動く。
「行かせるか!」
「フェンデル、欲張りすぎた」
しかしヴァンが彼の前の立ちふさがり、フェンデルはタトルたちが去るのを止めることができなかった。
☆
塔の牢屋には小さい窓があり、セインがぼんやりと眺めていると大きな鳥が見えた。
目を凝らしてそれが鳥ではないことに気が付く。
「バイゼル?!」
その声に気が付いて彼は近づいてきた。
「ここにいたか!ちょっと待ってろよ」
窓に取りついてそう言ったバイゼルは急に姿を消す。窓はセインの背より高いところにある。どうにか壁に張り付いて登って、窓を見下ろしたが彼の姿は見えなかった。
「なんで、バイゼルが?戻ってきたのか?」
あれから4日、セインは状況を掴めていない。窓から見下ろすのを諦めて、床に飛び降りると間もなく賑やかな足音が聞こえてきた。
「なんか、本当、人の国ってゆるゆるだな」
「そうですよね。あの王妃、いや、女王がいないと簡単に攻略できるじゃないですか」
バイゼルとラギルのそんな話し声がして、彼らが姿を現す。
「元気そうだな」
「なんか癪ですね」
開口一番でそう言われて、セインは脱力してしまう。
向かいの牢の宰相などは唖然としていた。
「セイン。お前にやってほしいことがある。丁度いい。宰相もいるな」
タトルは軽口を叩く2名を無視して、セインの牢の鍵を開けた。
「やってほしいこと?」
牢から出ながら、彼に尋ねる。
「全面戦争が始まった。止められるのはお前しかないんだ。人の国の王になって、戦争を止めてくれ」
「は?」
予想外のこと、いや初めはその予定だった。しかしその目的など忘れ去ってしまっていた。
「王になるなんて、今更」
「ジョセフィーヌは我が王が殺す。だからお前は人の国の王になって戦争を止めるだけでいいんだ」
「ははは!馬鹿なことを。ジョセフィーヌ様を殺せるわけがない!」
セインたちの会話に入り込んだのは宰相だった。
絶食して頬がこけ、髪も乱れ、みすぼらしい姿になっていた。けれどもその目は爛々と輝きセイン達を睨みつける。
「人ごときが、陛下を侮るなんて!頭にきますね!」
「ああ、こいつ。痛めつけていいか?」
ラギルとバイゼルは急に好戦的になって、ステファンを睨み返した。
「野蛮な生き物だな。魔族というものは。痛めつけるがいい。私は死んでも構わない。むしろ死んでしまいたいくらいだ。私は結局トール様を救えなかった。予想できなかったことではない。けれども!」
「ステファン。あんたはおかしなことばかり言う。前はそうじゃなかった気がするのに。知ってることを話してくれないか?」
とうとう狂ってしまったようなステファンの姿に、セインは彼が妙なことを言っていたことを思い出した。
ーー彼は何かを知っている。それを知ってから次の行動を決めたほうがいい。
タトルも同じように思ったようで、黙っていた。
「いいでしょう。どうせ最終目的は一緒なのです。その魔族たちも秘密を知り震えあがるといい」
一瞬の沈黙の後、スタファンが再度口を開く。
「言い方がむかつきますね」
「タトル、こいつ、一発なぐってもいいか?」
すると、ラギルとバイゼルが眉を潜めた。
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