第19話
翌日、先に動いたのは人だった。
それまで国境近くに集めた兵士たちが一気に魔の国へ流れ込む。
人の数千に対して、魔族は5百あまり。
けれども魔族1名に対して、人は3人がかり。魔法を使える魔族もして、人の数はどんどん減っていく。
第2陣が動き敗走の動きを見せた時、数十の魔族が一気に消える。
「来たか」
後方でのんびりと構えていたザイネルは、ジョセフィーヌの姿を視界にいれて笑った。
「さあ、久々に魔法を思いっきり使ってみるかな」
ザイネルの周りにいた魔族が彼の魔法の気配を感じて、道を開けた。彼は立ち上がり、味方を巻き込まないことを確認してから魔法を放つ。それは炎の魔法で、炎は一直線にジョセフィーヌの元へ向かう。けれども彼女に届く直前で透明な壁によって防がれた。
「まあ、簡単にはいかないよね」
苦笑して、彼は彼女に対時するために歩き始める。
ザイネルの最初の魔法攻撃は防がれてしまったが、魔族たちの動揺を治める効果をもっていた。仲間が突然消えて慌てていた者たちが落ち着きを取り戻し再び攻撃を開始した。
☆
「いったり来たり、本当面倒なことさせるよな。ザイネルの野郎」
ヴァン一人では大変だろうと、タトル、バイゼル、ラギルが共に行動することになっていた。体力温存のため、移動は馬で行う。
「お前たち、よくあいつの命令を聞いてるよな。あ、そうか、まあ、あいつは強いからな」
魔の国は人と違って血統ではなく、強さがモノを言う。
ザイネルは確かに前魔王の息子ではあったが、その強さは随一だ。頭も切れるため、足元をすくおうとして何名もの魔族は処分されたことがあった。
「人の国も今や強さが物を言うか。おっかしいよな」
ヴァンのぼやきに答えず、ラギルが早口に尋ねる。
「さっさと、セインを助けて戦争を終わらせてもらいましょう。助けた後、どうすれば王と認められるんですか?」
「……それは聞いてなかったな」
「駄目じゃないですか!」
「マジかよ!」
「あの宰相辺りを締め上げればいいのではないか?王が殺されて憤っていた様子だし」
ラギルの質問に、へらっと笑い返したヴァンにラギルとバイゼルが怒ったのだが、タトルが妥当な案を持ち出してその場はどうにか丸く収まる。
そうして夕方、やっと街に辿り着いた。
「戻ってくると思っていましたよ」
「お、フェンデル。寝返ったのか?」
国境を超え、鳥型に変化したバイゼルによって、街の周りに堀と壁を越えた。全員を一気に運べることはできず、一名ずつだ。
全員が揃ったところで、ヴァンたちは数日前まで味方だったフェンデルを前にする。
「私の意志は変わりません。目的のためには」
彼はそう答えると構える。
「目的ねぇ。俺たちの目的はセイン奪還、そして人の国の王への即位なんだか?」
ヴァンは鞘から大きな剣を抜き、彼に向ける。
「そうですか。目的は同じ。ですがまだ早い」
「どういう意味だ?」
「魔王には死んでいただく必要があるのですよ」
「なに?」
フェンデルから聞かされた言葉にヴァン、タトルたちが声を上げる。
「セイン殿下、セイン陛下による平和な世界統一、それを成すために魔王は不必要」
「へへ。そうきたか。だが、ザイネルは俺の友達でな。だいたい世界統一なんて必要ない事だ!」
「争いはなくなりません」
「それはそうだろうな。だが、俺たちは人と違う。なぜ同一の王に支配されないといけない。しかもセイン?同胞は黙っていない」
「魔王がいなくなれば、大人しくなるでしょう?」
「それは違うんだな」
ヴァンが切りかかり、それをフェンデルが受け止める。
タトルたちも戦いを始め、三人の騎士が黒い手袋を嵌めていることに気が付いた。
「用意周到だな。魔法剣士か」
先の戦争に参加したこともあるタトルはその黒い手袋に見覚えがあった。
手袋に描かれた魔法陣を使い、人は魔法を使う。
「魔法……。魔法陣を使ってくれるので楽勝ですね」
「ああ、王妃。いや女王か。あの魔法は読めなかったからな」
ラギルが小剣をおさめ、魔法を放つ構えを取る。バイゼルは翼を広げ戦闘態勢に入った。
「ヴァン。セイン殿下とメルヒが世界をおさめ、あなたがそれを支えてみませんか?」
「ふん。なんだそれは」
二人は打ち合いをしながらも会話を続ける。
「魔王は勝てません。リグレージュ様の力に敵うわけがないのです」
「リグレージュ……大樹?どういうことだ」
「ジョセフィーヌ様はリグレージュ様の力を体現できるお方です。なので魔王が敵うわけがないのです」
「ジョセフィーヌが?」
「待てばすべてが終わる。私はその時間を稼ぐつもりです」
動きが止まったヴァンに剣を振り下ろすが、彼はそれを受け止める。
「色々俺の知らないことがあるようだな。聞かせてもらおう」
「それはすべてが終わってから」
「遅いんだよ!」
ヴァンは力で剣を押し切り反撃したが、フェンデルは体を捻って攻撃を避けた。
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