第14話


 計画はフェンデルを助けるのが先で、その後に王と王妃を殺す。

 彼が収容されている牢屋は、他の囚人とは異なる場所にあった。厳重ではあったが、警備の兵士を攻略すれば騒ぎを起こさず事を済ませられる。


 自分たちの力を見せてやるとばかり、ラギルとバイゼルが甲冑を纏っているにも拘らず、警備の兵士を一瞬で倒していく。もちろん、事前に間者が見張り時間を確認しており、その交代の時間を狙って事を起こした。


「お前たちは?」

 

 現れた甲冑の騎士たちを見て、フェンデルは動揺を隠さなかった。しかし、騒ぎ立てるようなことはしない。


「フェンデル。僕だ。助けに来た。今から王と王妃にもう一度挑む。お前はそのまま逃げるといい」

「王妃殿下の魔法を見たでしょう?同じ目に合うだけです。それよりも」

「おいおい、この間の決意はなんだったんだ?死を前に怖気づいたか?」


 セインを宥めようとした彼に、ヴァンが皮肉を放つ。

 しかしフェンデルは感情を抑えたままだ。


「無駄死にしてほしくありません。今度こそ、彼女はきっと。二度目はありません。私はここでじっと裁きを待ちましょう。だから、あなたは」

「煩い。逃げるなんて絶対にしない。それくらいなら王妃に殺された方がましだ」

「まあ、今回は負けるとは決まってないぜ。なあ、タトル、ラギル、バイゼル」

「……あなたたち舞い戻ってきたのか?」


 フェンデルはその名を聞いて少し呆れた声を漏らした。

 セインの背後に立っていた甲冑騎士の一人、タトルが前に出て兜を外す。そうして答えた。

 

「陛下の指示でな」

「陛下……。ザイネル様ですね」


 フェンデルは少し考えるような仕草を見せる。

 セインはその様子に不安を覚えてしまった。

 メルヒはラギル達と共に状況を見守っているだけだ。今は口を挟む場ではないと、彼女は弁えていた。


「王と王妃が亡くなった後、セイン殿下を人の国の王として受け入れるつもりですか?」

「フェンデル?」


 現時点でセインは当初の目的を忘れており、フェンデルの問いに横から聞き返してしまった。

 それに構わず、タトルが答える。


「当然だろう。始めからその予定だった」

「そうでしたね。安心しました」 


 緊張が走った気がしたが、タトルの返答にフェンデルが笑う。

 その笑みがまた意味深で、セインは首を傾げたくなる。


「話は終わりだな。さて、次の目的地に向かうぞ」


 ヴァンがそう取りまとめ、一行は牢を後にした。



 今までが上手く行き過ぎたのがおかしかった。

 フェンデルの収容されていた牢は塔の一角であり、階段を使って降りていくと、待ち構えていたように騎士や兵たちが勢ぞろいしていた。


「これは、元近衛兵団長殿。魔族に上手く取り入ったようだな」


 年齢は50歳近く、恰幅のよい騎士が剣を抜く。


「ガル様。あなたが来られるとは。そういえばあなたが新しい近衛兵団長でしたか?」

「そうだ。やっとだ。そしてこの手で貴様を殺せる時がやってきた」


 ガルと呼ばれた騎士は部下に指示を出す。すると騎士の一人が何かをセイン達の前に投げつけた。それは先ほど東の塔で見た間者だった。甲冑は着ておらず暴行を受けたようで、体中が傷だらけ、一番ひどい部分が尾っぽだった。半分ほどが千切れて、間者はすでにこと切れている。


「魔族といえでももろいものだ。こいつが工作したことからお前たちのいる場所は直ぐに割り出せたからな」

「この、外道め!」


 バイゼルが外衣を脱ぎ捨て、その羽を広げる。


「外道はお前たちだ。気色悪い奴らめ」


 ガルは、前王時代に活躍した騎士だった。魔族に殺された王太子とも親しくしており、先の戦争にも参加している。トールが王になり、彼を退け、フェンデルを登用した。そのことを長年彼は恨みに思っていた。


「さあ、お前たち。魔族とその裏切り者を殺せ!」


合図を受け、騎士たちが次々を剣を抜く。

前近衛兵団長フェンデルを前にしているというのに、騎士たちには迷いはなかった。ガルは団長に就任するとフェンデル派の騎士たちを降格させたりと自分に媚を売る者を登用して、ここに集まった騎士たちもそのような輩ばかりだった。

 

「こんな雑魚がいくらいても僕たちには敵わないんですよね」

「その通りだ」


 間者の遺体に外衣をかけ、ラギルが甲冑を脱ぎ捨てる。タトル、メルヒも同様で、メルヒに至っては犬型に変化した。


「ここは私と、ジリン……ヴァンでしたか?私たちが引き受けます。殿下は王の元へ!」

「くそっ。俺を指名か。まあ、受けてやる。力比べは負けないからな」


 フェンデルは襲ってきた騎士の剣を奪い応戦、ヴァンはその隣で、騎士の攻撃を防ぐ。


「私も参加しよう。他の者はセインと一緒に行動しろ」

「いいね!」

「魔法対決が面白そうだぜ」


 タトルがヴァンの傍に立ち、さらに防御壁を作る。

 一人と二名の魔族の華麗な剣捌きによって、彼たちは騎士たちはそれ以上進めなかった。


「セイン!私の背に乗れ!」


 戸惑っているセインにメルヒが声をかけ、彼は自身のやるべきことを認識した。迷うことなく、その背に乗る。バイゼルがラギルを掴んで、空を舞う。メルヒはセインを乗せて、騎士の間を潜り抜けた。


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