第8話 くそださい



 けど、知り合いをおいて逃げられるのか?

 まがりなりにも、付き合いのある……あの馬鹿を。


 馬鹿はもうすでに足を止めている。

 真正面から追跡者を叩き潰すつもりらしい。


「くそっ、来るなら来い!」


 僕は思い切って足を止め、足元にあった石を拾って、投てき姿勢。

 くそださい戦い方だな。


 選択肢が投石って、冒険小説に出てくる旅立ち前の主人公でもやらねぇよ!


 心の中で嘆いてるうちに戦闘開始。


 馬鹿が木刀をふりまわして、真正面からとびかかってきたダークウルフを打ちすえた。

 続いて、馬鹿の右と左から魔物が出てくる。


 左は僕が石を投げて、時間をかせいだ。


 その間に、馬鹿は右の奴に対処。


 あっ、やべっ。


 左の奴がこっちに視線を向けて、睨んできた。


「く、来るな!」


 といっても、相手は魔物。

 言葉が通じるわけがなかった。


「こんなところで、死んでたまるかよ!」


 やけくそ気味に、とっ組合でもするかと思っていると。

 どこからか声が聞こえてきた。


 女の子の声だ。


「私の友達に手を出したら承知しないわ! 退きなさい!」


 それは、僕のもう一人の幼馴染。

 金髪のお嬢様の方だ。


 木刀を持った彼女が放った怒声を耳にした魔物達は、次の瞬間みな一斉に体をふるわせて回れ右した。


 そして、僕達を襲いに来た時の三倍くらいの速さで逃げ帰ってしまった。


 このお嬢様、相手を威圧して怯ませる事ができるという、ずるい特技を持っているのだ。


「もう、何で私に言わないで薬草探しにいっちゃうのよ。助けに来たわよ!」


 とはいえ、助かった。


 でも彼女の言う通りなんで声を掛けなかったんだろう。

 お嬢様は見た目はお嬢様してるけど、かなり戦力になるし。

 やっぱり馬鹿が馬鹿なりに気を使わせて、危険な目に遭わせないようにした……とか?


 とりあえず息をついてほっとしてると、ぷんすかしているお嬢様に対して、馬鹿がポツリと一言。


「え? いやだって病気してたじゃん」


 はぁー!?


 病気してた子って、このお嬢様の事だったの?

 だったら、最初から説明しろよ。そんなだから馬鹿は馬鹿なんだよ。


 ていうか、病気してるのによくここまでこれたな。

 なんてお嬢様の体力に感心しながら見つめていると、目の前で当人がばったり倒れた。


「「あっ」」


 慌てて抱き起すとすごい熱になってた。

 無茶してここまで来たのか。


 まったく馬鹿もお嬢様もほんとよく似てる。


 僕達は、お嬢様を連れて村に急いで戻った。


 その後は幸運な事に、魔物と出会う事が無かった。


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