第7話 魔物襲来



 歩けど歩けど、森の終わりはやってこない。


 馬鹿が木の棒を倒して、「帰り道はどーっちだ」、なんてやってるのを見ながら途方にくれる。


「くそっ、どこだよここ……」

「お、ぱたってあっちに倒れた。たぶん帰り道はあっちだ」

「早く帰りたい。あとこいつだけ置いていきたい」

「なんだよ、まだ行き倒れるって決まったわけじゃないだろー」

「行き倒れるとかさらっと言うなよ!」


 今頃、心配している連中大勢いるだろうな。

 両親とかカルル村の連中とか、あともう一人の幼なじみの方のお嬢様とか。


 こんな事になるなら馬車の後ろの壁に隠したへそくり、使っておけばよかったな。


「なあヨルン、元気だせよ。まだ出れないって決まったわけじゃないだろ」

「……ぶつぶつ(父さん、母さん、親不孝者をお許しください)」

「うーん、重症だなぁ」


 両親への遺言を呟いてると、どこからかうなり声が聞こえてきた。


 近くの茂みががさがさと揺れて、声の主が顔を出す。


 魔物だ。


 気配がある。しかも四方八方から。


 足音を殺してきたのだろう。


 数メートル先にやってくるまで気が付かなかった。


「おい、囲まれてるぞ」

「やべー」

「走るぞ!」


 僕達は非力な子供だ。


 魔物を正面から迎え討つ……なんて、できるわけない。

 

 だから僕達は必死に足を動かして、奴らの行動範囲である森から逃れる事だけを考えた。


 脳裏ではすでに、魔物に食い散らかされている子供二人の亡骸が浮かんでたけど、そんなものは無視だ無視。


 僕達は、舗装されていない森の中の道を、駆け抜ける。


 転ばないようにするだけでも大変だってのに。


 明日筋肉痛になりそうだ。

 生きていたら、の話だが。


 必死で逃げるけれど、やはり魔物の方が足が速かったらしい。


 狩りをして生きるのために進化した生物と、子供の足。

 前者に後者がかなうわけがなかった。


「このままじゃ、まずい……な」


 やがて追いつかれてしまう。


 馬鹿は早々に腹をくくったようだ。


 馬鹿は、馬鹿らしくない真面目な顔で振り返る。


「くっ、こうなったら戦うしかない」


 やめろよ。

 お前ならある程度自衛できるかもしれないけど、僕は戦った事ないんだぞ。

 足を止めたら、僕の方が早く終わる。

 死ぬ可能性が高いじゃないか。


 まだ逃げてた方が生き延びられるのに。


 死への恐怖が迫る中、「あいつを囮にして逃げるか」なんて考えが一瞬脳裏に浮かんだ。


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