第6話 迷いの森



 僕達が足を踏み入れたのは、迷いの森。

 入った者を迷わせる事で有名な森だ。


 地元では知らない人はいない、かなりやばい場所。


 だから来たくなかったのに。


 僕は右も左も前も後ろの同じような景色をぐるっと見渡して絶望する。


「……嘘だろ。帰り道どっちだ」


 まったく分からない。


 森に入ったのは、たった数分前だ。


 それなのに、もう戻れなくなってしまった。


 皆が恐れるわけだ。

 

 僕は、馬鹿についてきた事を猛烈に後悔した。


「ど、どうするんだよ! この状況!」


 すると緊張感のない馬鹿はこんな感想を放ってきた。


「すげー。ほんとに迷った!」

「関心してる場合か!」


 僕と同じように辺りを見回している馬鹿。

 しかしその表情にはまるで危機感というものがない。


 今すぐその脳天をカチ割ってやりたい。


「だいじょーぶだって、俺達2人だし!」


 僕たち子供で人間だぞ。

 魔物がうじゃうじゃいる森で、そんな糸くずみたいな要素が増えたとして、なんの強みになるんだよ!


「ヨルンがいるし!」


 意味が分からない!

 俺はお前より弱いんだぞ!


 馬鹿は木刀でそこらへんの空気を適当に切りつけ始めた。


 木刀を持ってるくらいだから、この馬鹿には多少の戦闘力がある。

 これまでに何度か魔物だって倒してるくらいだから、そう簡単にくたばったりしないだろう。

 僕も、初対面の時助けられたし。


 けれど、ここは魔物の住処。

 森の中は魔物の活動圏内だ。


 一匹ならともかく、数で圧倒されたら、太刀打ちできないだろう。


 加えて、僕には武術の心得がない。

 魔物が襲ってきたときに、あいつが守ってくれないと……たぶん死ぬ。


「は、早く戻らないと」

「おっ、薬草はっけーん!」

「こんな時にかよ!」


 視線の先で、のんきに薬草|(らしきもの)を摘みはじめる馬鹿。

 きっと母親のお腹の中に緊張感を置き忘れてきたのだろう。


 嘆く僕をよそに、薬草採取に精を出していた。


「おい、もういいだろ。十分集まっただろ?」

「分かった。よし、戻ろうぜ!」

「戻れたらな」


 帰り道(らしき道)をたどって、進んでいくが森の中の景色がどこも似たようにみえてて、困る。


 人生でこれほど泣きたい気持ちになった事があっただろうか。


 いや、馬鹿とつきあってたら割とあったな。


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