第5話 捨てたいやつ



 見送った時間はせいぜい数分だったろ。

 なのに追いつけなかった。


 どこまで行ったんだ、あの馬鹿。


 馬鹿の足が結構速かった点について。

 あいつ、行動力があるからな。


 だから追いつくのに時間がかかってしまった。

 見慣れた背中を見つけたのは森の前だ。


 馬鹿は(どこで用意したのか分からないけど)手製の木刀を携えて森の前でたたずんでいる。


 何やってんのお前。


「おい、馬鹿。お前馬鹿のくせに何もっと馬鹿な事やろうとしてるんだよ。早く戻れ」

「そうしたいのはやまやまだけど、じっとしてたら女の子が危ないんだ」

「女の子だったのか。そ、その子、そんなにやばいのか?」

「すごく」

「……っ」


 村の住人の顔を思い浮かべる。

 子供の顔は大体覚えてる。


 この馬鹿がたまに引き連れて遊んでるからな。

 

 彼等の中の誰かが死ぬのは、僕だって嫌だ。


 僕は目の前の、鬱蒼とした森を眺める。

 そしてため息をついた。


「少しだけだからな、ここら辺を見るだけだからな」


 だからまあ、ちょっとくらいなら協力してやるのもやぶさかではない。

 危なくない範囲で、だが。


「よっしゃ、ヨルンさんきゅー。持つべきものは友だよな!」

「僕は捨てたいけどな」

「今、友達だってところは否定しないんだな。へへっ、素直じゃねぇな~。うりうり」


 僕はムカつく馬鹿にうりうりされた。


 苛立ったので即座にどついてやったが。


 元気になった馬鹿に促されるまま、しぶしぶ森の中に入っていく。


 ほんの少し、近くに薬草が生えていなかったら戻ってくる。

 そのつもりで、だ。


 ……。


 だったのだけど、その考えを改めることになるのは数分後。


 見たことのあるような景色ばっかりの周囲を見つめて、頭を抱えた。


「迷った!」


 大変だった。

 帰り道が分からなくなってしまっていた。


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