第56話 冒険者ギルドのスタッフ

「エリオット様、フレデリカさんにシモーネさんも。本日は、わざわざコチラに足を運んで頂きありがとうございます」

「あ、はい。いえ」


 部屋に入ってくるなり、頭を下げたのは高齢の女性。椅子に座って待っていた僕ら3人は、仰々しく挨拶してきた彼女に失礼が無いようにと席から立ち上がり、彼女を迎えた。


 そんな大げさに挨拶してくるとは予想していないので、どう返すべきなのか反応に困ってしまった。咄嗟だったので、ただハイと答えるだけだ。なぜか僕は、様付けで呼ばれているし。


「どうぞ、おかけ下さい」

「は、はぁ……?」


 なぜ、そんなに丁寧に扱われるのか。戸惑いつつ席に座る。彼女たちも、僕たちが座っている向かい側の椅子に腰を下ろした。僕たちと部屋に入ってきた彼女たちで、お互いに向かい合うような位置で座っている。


 高齢の女性は見た目に反して、声は老いを感じさせないハキハキとした喋り方だ。動きも機敏で、実は思ったよりも若いのかもしれない。背も高く、席に座ってからも気を引き締めた真面目な表情で、どっしりと構えているので迫力があった。 


 正面からジーッと見られているのを感じて、少し居心地が悪い。顔を見て、何かを確認しているようだけど。


「改めまして皆さま、本日はお忙しい中お越しくださり誠にありがとうございます。少し、伺いたいことがあったので」

「いえ、僕達も詳しく報告しておきたい事があったので。ちょうど良かったです」


 やはり、とても丁寧な対応だ。とりあえず、コチラも報告しておくべき要件があるという事を伝える。


「先に、我々の自己紹介を」

「えぇ、そうね」


 隣りに座っている受付の女性が、高齢の女性に言う。そういえば、まだ彼女たちの名前を聞いていなかったか。


「私は、この冒険者ギルドで事務長をしておりますアンニーナと申します。そして、コチラが……」


 受付の女性の名前は、アンニーナと言うらしい。詳しくは分からないけど、事務長という役職の付いた偉い人のようだった。見た目が若くて可愛らしかったので、僕は入ったばかりの新人職員なんだろうと思っていた。実は、僕が思っていたより重要な役職についている人だったらしい。そして、もうひとりの高齢の女性は。


「私はギルド長をしています、ソイントゥと申します。お見知りおきください」

「よろしくおねがいします」


 高齢の女性は、座りながら僕たちに向かって頭を下げてきた。ギルド長という偉い立場の人が非常に丁寧な仕草で自己紹介してきた。というか、いきなりの重要人物の登場にビックリしていた。目の前にいる彼女は、ギルド長だったのか。


 そういえば、彼女を見たことがあるような気がする。王国の重要な行事などで顔を合わせる機会があったかもしれない。いや、どうだろう。最近の僕は、あまり王国の行事には参加してなかったから気のせいかもしれない。


 そんな事を考えていた。だけど一番気になったのは、なぜ冒険者ギルドの長である彼女が僕たちの前に出てきたのか。僕たちに聞きたいことがあるというのは、よほど重要な内容なのかもしれない。色々と疑問が湧いて出てくる。


「僕たちのことは?」

「もちろん、存じております」


 念の為に聞いてみたが、ギルド長のソイントゥは知っていると答えた。この部屋に入ってくる時、僕たちの名前を呼んでいたから当然なのかな。受付で対応してくれたアンニーナが教えたのだろう。

 

「我々が伺い事については、一旦後回しで。先に、あなた達が伝えておきたいという報告について、詳しく聞いてもよろしいですか?」

「あ、はい」


 ソイントゥさんは、何やら切羽詰まったような感じだった。それなのに、まず先に僕たちの報告から優先して聞いてくれるらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る