第55話 混乱した者たち
「あっ!」
「え?」
受付カウンターに近寄っていくと、座っていた女性が突然立ち上がって、僕たちを指差し叫んだ。
冒険者証明書とダンジョンの入場許可証を発行してくれた、あの受付嬢だ。非常に驚いた表情で大声を出している。その勢いに驚いて、僕も声が出た。一体、何事だ?
「エリオットさん、生きていたんですか! それにクロッコ姉妹も」
受付カウンターから身を乗り出して、声を掛けてきた。”生きていた”というのは、どういう意味なのかな。やはり、ダンジョンから帰還したという報告をしに来るのが遅かったのかもしれない。期限である1週間まで、まだ1日だけ余裕があったはず。だけど、ギリギリなのが問題だったか。
僕たちが潜ったのは、リーヴァダンジョンと呼ばれる初心者から挑戦できるぐらい優しい難易度のダンジョン。予定では、1日か2日だけ潜り戻ってくる予定だった。
心の中で、トラブルがあったとはいえ遅れてしまったのはヤバかったかもしれないと不安になりながら、早足ですぐに受付の女性に近寄った。そして、僕は口を開く。
「あ、ハイ。無事です。報告は遅れましたが、ダンジョンから無事に帰還しました」
「本当に、3人とも無事で良かったです!」
ダンジョンから無事に帰還した事を伝えると、受付の女性は本当にホッとしたようだった。ホッとしたのか、気が緩んだ様子が見ていて分かった。過剰な反応のように見えたが、まぁいいか。
これで報告は終わり。ダンジョン内でモンスターを倒して入手した、ドロップ品を換金してもらおうかと思っていた。なのに、彼女から何か話があるらしい。
「ダンジョンからの帰還報告に関してなんですが、コチラも少し尋ねておきたいことがございます。申し訳ないのですが、部屋を用意しますのでそちらに移動してから、伺ってもよろしいでしょうか?」
受付の女性は声を小さくして、とても慌てたような様子。申し訳ないという感じの雰囲気で頼み込んできた。特別に用意した部屋に案内して、そこに行ってさらに話を聞きたいという。
「聞きたいこと?」
「はい」
「どんな内容の話ですか?」
「いえ。ここでは、ちょっと……」
話せないような内容なのか。受付の女性はチラリと横目で、建物内で言い争いしている彼女たちの方を見た。何か、関係がある話なのかな。
詳しい内容については、ここでは話せないという。小声で話している。聞かれるとマズイよう内容なのだろうか。思い当たるような事は、何も無い。
僕の後ろで待機して、報告が終わるのをジッと待ってくれていたフレデリカさんとシモーネさん。2人に視線を向けると、ゆっくりと頷いていた。本当ならすぐにでも休みたいだろうに、少しだけ長引いても良さそうだ。
僕たちも、リーヴァダンジョンから別のダンジョンに転移してピンチだったこと、未発見だろうと思われるケラヴノスというダンジョンを発見した事について。ギルド職員に詳しく報告しておきたかったので、丁度よかった。
「わかりました」
「ありがとうございます! では、コチラへ」
一番前を受付の女性が歩いて、その後ろに僕とフレデリカさんたちがついていく。僕たち3人は、受付の女性に連れられて建物の奥にある部屋へと案内された。
大きなテーブルと、何人か座れる椅子が並んでいるだけのシンプルな部屋。ここで話をするのか。まぁ、話をするだけなら十分かな。
「すみません。もう何名か、ギルド関係者を話し合いに参加させたいのです。すぐに呼んで戻ってくるので、今しばらくお待ちになっていて下さい」
「あ、はい。って」
部屋に到着すると、慌ただしく入ってきた部屋を出て行ってしまった受付の女性。誰か呼んでくるらしいが。僕たち3人だけ、部屋の中に残されてしまう。
「彼女。慌てて部屋から出ていったが、どうする?」
「とりあえず椅子に座って、戻ってくるのを待ちますか」
フレデリカさんが、壁や天井に視線を向けつつ聞いてきた。とりあえず今は、この部屋で受付の女性が戻ってくるのを大人しく待つしかない。
テーブルの周りに置いてあった椅子に、僕たち3人は腰かけた。
シモーネさんが僕の隣に座って、反対側の椅子にはフレデリカさんが座っていた。シモーネさん、僕、フレデリカさんの席順で、女性2人の間に挟まれつつ僕も座る。
「入った所で集まっていた冒険者たちと、何か関係ある話なんでしょうかね?」
「うーん。どうかしら」
詳しく聞きたい事とは、一体何だろうか。内容について考えると、この建物の中に入った所で集まっていた冒険者たちに、何か関係ある事だろうなと僕は予想する。
「そういえば、向こうに見られた瞬間に驚いていたな」
「受付の彼女は、どうやら僕たちが死んだと思っていたんじゃないですか?」
「帰還報告が、期日ギリギリになってしまったからね」
受付の女性は、僕たちの顔を見て驚いていた。あの表情と反応は、ダンジョン内に生息するモンスターに殺されたんだろう、と思っているような感じだった。
「それから、誰か連れてくると言っていたけれど誰かしら?」
「それも分かりませんね」
見当がつかない。連れてくる人物とは一体、誰なんだろうか。受付の女性が誰かを連れて部屋に戻ってくるまでは、何も分かりそうになかった。仕方なく、待った。
「大変お待たせいたしました」
しばらく待っていると、受付の女性が謝りながら戻ってきた。その後ろに、高齢の女性が1人。彼女たちは一緒に、僕たちが待っている部屋の中に入ってきた。
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