第54話 ギルドへの報告
6日ぶりに戻ってきた王都の街の風景に、懐かしさすら感じながら歩く。僕たちは冒険者ギルドに向かっていた。
無事に地上まで戻ってこられて、気分は楽になっている。疲労は溜まっているが、足取りは軽い。衣服や外套も汚れているが、気になるほどでもない。
一度、どこかの宿を取って一旦落ち着いてからギルドへ報告しに行ったほうが良いのだろうか、とも考えた。けれど、ダンジョンの入場許可証を受け取りに行った時、受付で対応してもらった女性に言われていた1週間という期限が、ギリギリだった。
なるべく早く報告しておこうと思って、休むよりも先にギルドへ寄ることにした。休息を取るのは、その後にしよう。
報告まで期限は1週間あると聞いて、その時はかなり余裕があって大丈夫だろうと思っていた。それなのに、残り1日になってしまった。期限には間に合っているし、色々とトラブルにも見舞われたので、ちゃんと順を追って説明すれば怒られたりすることも無いと思う。とはいえ、なるべく早く報告は済ませておきたい。
僕たちが無事にダンジョンから帰還したという報告をしておくのは、早いに越したことはないだろうから。
「ん?」
ギルドがある建物の前まで来てみると、なんだか騒がしかった。建物の中からは、女性の大声が聞こえてきた。何やら言い争いして、揉めているようだけど。
「なんだ? やけにウルサイな」
「いつもと、少し雰囲気が違うわね」
「確かに、騒がしいですね。どうしたんだろう? 何か、あったんでしょうか?」
フレデリカさんたちも建物の中から聞こえてくる大声に気付いたようだ。普段は、どうなのか知らないけれど、ダンジョンの入場許可証を受け取りに来た時、こんなに騒がしくはなかった。
建物の外に居る僕たち3人にまで聞こえてくる複数人の大声。ここまで聞こえる、ということは建物の中でよっぽど大きな声を張り上げて言い争っているようだった。
なんと言っているのだろうか聞いてみようと、耳を澄ましてみる。ここまで大声は聞こえてくる。けれど、内容は部分部分しか聞き取れない。
ダンジョン、冒険者、モンスター、戦って、分からない。外に聞こえてきたのは、そんな言葉だった。
「何かしら? ダンジョンとか、冒険者とか聞こえてくるけれど?」
「そうですね、彼女たちは何を話してるんでしょうか?」
シモーネさんが耳を澄ませて聞き取った言葉。僕と同じように聞こえている。でも何を話してるいるのか分からない。
「とりあえず、中に入って確認してみようぜ」
「そうですね。そうしましょう」
ここで悩んでいても、仕方ないかな。自分の目で確かめてみるのが、一番手っ取り早いだろうし。
フレデリカさんが率先して、冒険者ギルドのある建物の中へと入って行った。僕とシモーネさんは彼女の後ろについて行って、一緒に建物の中に入った。
そこには多くの人たちが居た。ぱっと見たところ、30人か40人ぐらい集まっているのが見える。かなりの人数だった。
「おわっ。なんで、こんなに人が!?」
「やけに今日は、人が多い。やっぱり何かあったみたいね」
集まっていた人たちの数を見て、驚きの声を上げたのはフレデリカさん。対して、冷静に周囲の観察を続けるシモーネさん。
僕達3人が建物の中に入ってきても、白熱した話し合いは止まらずに続いていた。大声を張り上げて、言い争っている女性たち。
そこに集まっている女性たちは皆、身体に防具を装着している。戦闘態勢だった。手には剣や弓、戦棍などを持っていた。見るからに武装しているという事が分かる。集団になっている彼女たちの中には、全身の鎧を着込んだ完全武装の人も居た。
若そうな人から、中年まで年齢はバラバラ。女性だけなのかな。遠くから確認してみたが、もちろん男性の姿はない。
「掴み合いの喧嘩になりそうだな」
「そうね。大丈夫だろうけど、エリオット君は離れておきなさい」
「そうですね。なら、先に報告を済ませましょうか」
なぜか、フレデリカさんは楽しそうに見ていた。あんなに大勢が集まり、ギルドの建物内で言い争っているというのに。一体何を言い争っているのか、疑問に思うけど関わるのも面倒だった。
僕たちは集団から離れて、帰還の報告のために受付があるカウンターへと向かう。6日前に知り合った、あの受付嬢は居るかな。
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