第51話 地上へ向かう道

「フレデリカさんにシモーネさん。2人とも、回復しましたか?」

「あぁ。もう行けそうだ」

「私も、大丈夫。行けるわよ」


 休憩を取り、戦闘で消耗した体力をある程度だけ回復させてから僕たちは、上層へ進む階段を登り始めた。僕たち3人組のパーティーは、ドラゴンが居た階層から上を目指して進んでいく。


 最下層へ向かう道中でモンスターとの連戦、ダンジョンの最下層に到達することで祝福を受けて、ドラゴンという伝説級のモンスターとの戦闘に無事勝利した僕たち。フレデリカさんとシモーネさんの2人は、非常に濃い戦闘経験によって能力が著しく成長していた。




  僕とダンジョンに潜る前の2人は、冒険者たちの中で能力が平均よりは少しだけ高いくらい。名が知られるほど、突出してはいなかったそう。しかし、成長力も高く能力が向上する速度は尋常ではなかった。


 おそらく、王国で冒険者として活躍している者たちと実際に実力を比べてみれば、彼女たちほど戦闘能力を持っている人は、数少なくなっただろうと思う。


 さらに、彼女たちと同じ経験を積んだとしても、同じように能力が向上することは無いだろうと思う。それぐらい、異常な成長を見せていた。やはり、限界ギリギリで過ごしていたから生き残るために必死で、成長せざるを得なかったということかな。


 


 そして僕も、この数日間で様々な戦闘の経験をくぐり抜けたことで、研究者になる前に各地を旅していた頃や、少しの間だけ冒険者として活動していた頃のような戦闘の勘、魔法を駆使した戦い方、感覚などを取り戻すことが出来た。それから魔力も、ダンジョンに潜る前と比べてみると、かなりパワーアップしている。




 ダンジョンに挑んだ当初は、王国で研究員として過ごしていた思い出にゆっくりと浸りながら、王国を旅立つ事前準備のために潜るつもりだった。


 モンスターとの戦闘を繰り返しているうちに、戦闘の感覚や勘を取り戻せれば良いかな、と考えていた。


 僕の予想していた通りには上手くいかなかった。なんとか全て、切り抜けることが出来たけれど。


 考え事をしながら、どんどん上の階層へ進んでいく。階段を見つけては、躊躇なく先に進む。転移トラップには懲りたので、ワナに対する警戒心は常に緩めないが。


「シモーネさん、通路の先や見えない場所からの奇襲に注意を」

「えぇ、既に確認してる! 奇襲は来ないようね。周囲の警戒は薄めで、大丈夫」

「わかりました。なら、フレデリカさんは前へ」

「オッケー! もう、仕留めた」

「2人とも、ナイスです! なら、もう上に行っちゃいましょう」


 3人で、息の合った連携でドンドン戦闘を挑んでいく。ドラゴン戦を超えて以降、向かってくる敵に一切苦戦はしなかった。むしろ、フレデリカさんは上がった能力を存分に発揮したい、出し切りたいと思っているのに、目の前に現れる敵が弱すぎると言って、全力を出し切れないことにヤキモキしていたりするほど。


「もう、地上に近いのか。この辺りで出会う敵では、歯ごたえがなさすぎる」


 シモーネさんは、連戦や祝福によって上がった能力を一つ一つ検証していくようにモンスターとの戦闘をこなしていた。自分の事について、詳しく調べていたようだ。


「目だけじゃなく、感覚で敵を察知できるようになったのね。なら、目を閉じて敵に命中させることも可能なのかしら? ちょっと、試してみよう」




 戦闘に苦戦することは無かったけれど、このダンジョンは非常に階層が深いようで10層、20層と数えて上がってきたが、まだ地上に到着はしない。一体、何層まであるのかが分からない。出口が、ほんとうにあるのか心配になってきていた。


 道中で、他の冒険者パーティーとも一切会うことが無かった。フロアに居るのは、モンスターと僕たちだけ。それが更に不安だった。



 上に進む階段は、今のところ各フロアには必ずあった。上に続く階段がある限り、行き止まりになるまでは一先ず上へ進み続けようという結論に至った。



 新しい階層へ到着したらまず僕が探索魔法で階段がありそうな場所を見つけ出す。上がってきた階段と次に登る階段との最短距離を調べて、その通りに先へと向かって進んでいく。

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