第50話 決着

「グルァウゥウゥゥゥゥ!」


 戦闘を始めてから数時間が経過していた。奴の長く伸びた首に魔法を当てた瞬間、大きく口を開けて断末魔を上げながら倒れていく。砂埃を立てて、ドラゴンは地面の上に横たわると動かなくなった。


「まだ油断しないで!」

「あぁ!」

「わかってる!」


 次の瞬間、ドラゴンの身体全体が白く光り始めた。通常のモンスターに比べると、何倍も大きい光の粒子になっていく様子は圧巻で、僕たちは戦闘の疲れを感じながら粒子が消えていくのを眺めて、ドラゴンとの戦闘が終わったのを実感した。


「やっと終わったな!」

「ふぅ、お疲れ様!」

「はい! フレデリカさんもシモーネさんも、お疲れ様です」


 フレデリカさんが近づいてきて、僕の肩を叩きながら労いの言葉をかけてくれる。しかし、その力は弱々しい。長時間の戦闘で疲労して、もう力が入らないようだ。


 彼女が持っていた大剣は、ドラゴンの胴体に何百回も叩きつけたり、尻尾の攻撃を受け止めていたので、刃はボロボロ。ほとんど折れかけている。激戦の証だった。


「はぁ、ホントに疲れた」


 戦闘終了後もクールに落ち着いた様子のシモーネさんも、チラチラと疲れた表情が見え隠れしていた。ぼそっと小声で、疲れたと呟いている。


「でも、思ったより簡単に倒せたわね。もちろん、エリオット君の強力な魔法による攻撃があったから、伝説級を倒せたんでしょうけど」

「いえいえ、それだけが勝てた要因ではないです。シモーネさんもフレデリカさんも戦闘で活躍してくれました。ダメージを与えながらターゲットを取ってくれたから、僕も楽に魔法を当てることが出来たんですよ」


 シモーネさんによる冷静な戦闘についての感想。彼女には、遠距離攻撃で集中して援護してもらったり、状況の判断や一瞬の隙を突く鋭い攻撃を合間合間にタイミング良く狙ってもらった。体力よりも、集中力や精神力を相当消耗したんだろうと思う。


 今回のドラゴン戦、今まで僕が経験してきたドラゴンとの戦闘では一番、楽に倒すことが出来たと思う。コンビネーションが上手く出来て、僕の指示通り動いてくれる仲間が居たからだろう。


 今回戦った敵は、ドラゴンとは言っても身体が非常に大きいという特徴ぐらいで、頭はそんなに賢くなかった。攻撃方法も火炎を吐くか、尻尾を振り回すか、もしくは巨体で押しつぶそうと突進してくる、ぐらいしかパターンがなかった。比較的、楽に対処できた。


 今まで僕は1人でドラゴンに勝負を挑んで、倒してきた。


 魔法を撃って、すぐ回避して。その繰り返しだったが、回避するときには一発でも当たったら致命傷だという緊張感がある。ドラゴンという巨体と対峙すると、非常に精神も消耗する。1人だと余計に心細くなって、巨大な敵を相手にするのは疲れる。そんな戦闘を何時間も続けるので、攻撃を全て回避したとしても疲労が半端ない。


 今回の戦いでは、フレデリカさんたちがドラゴンの注意を引きつけてくれていた。その間に、戦闘中に何度も落ち着ける時間が確保できた。少しでも落ち着けるような時間が取れれば、集中力と魔法の精度を高めて効率よく魔法を放つ余裕ができる。


「光が消えましたね。これで、本当に終わりです」

「もう、奴が立ち上がることは無いな。姿も見えないし」

「ん? 何か、地面の上に落ちてるようね」

「僕が受け取ります」


 ドラゴンの光の粒子が消えた後、ドロップしたアイテムを確保する。僕が受け取り空間魔法で収納しておく。


「さてと。進行方向は、向こうです。少しだけ移動しましょう」

「わかった。もう行くのね」

「ここは危ないかもしれないので、向こうの通路で一旦休みましょうか」

「それがいいな」


 入ってきた時とは逆方向の通路に僕たちは進んで、そのフロアを脱出する。無事にドラゴンが居たフロアを通過して、まだ来たことのない通路まで進むことが出来た。


 辿り着いた通路の脇で、少しの間だけ休憩する。一泊はしない。3人ともドラゴンから受けたダメージは少なく、幸いなことに怪我も負っていない。上層階へ進むのに何も問題は無かった。

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