第42話 武器の回収

 下へ向かう前に、やっておくべき事があった。2人の武器の回収だ。


「武器なしでは、敵と戦えませんから。何とかして、あのフロアに落としてしまった2人の武器を、なんとか回収しないと」

「危険だ。奴が居るぞ」

「僕が1人で、こっそり行って回収してきます」

「ダメよ。危なすぎる」


 通路に逃げ込む時、落としてきてしまった大剣と弓。それがまだ、ドラゴンが居るフロアに放置されている。あれを回収しないと、下に進むのは危険だ。敵と戦えないから。当然、2人は反対する。しかし、ここは引き下がらない。戦いを挑むわけじゃないから、危険性は低い。


「大丈夫です。危なくなったら、時間干渉の魔法を使って絶対に逃げ切れますから。武器を落としてしまった場所も把握しているので、ルートもバッチリです」

「いや、しかし……」


 時間を止めて2人を運び出した時、武器を落としてしまった場所は記憶していた。そこに行って武器を拾い、通路に戻ってくるだけ。こっそり行くだけなので安全だと説明するけれど、渋るシモーネさん。


「奴と戦わなければ、問題ないです。一晩ぐっすりと眠れたので、魔力は十分に回復しました。こんなに休ませてくれた2人に、恩を返したいのです。ダメですか?」

「……わかった。絶対に無茶はしないように」

「何かあれば、私たちが通路から飛び出していくからな。注意しろよ」

「わかりました!」


 説得を続けると、躊躇しつつも2人が許可してくれた。なので、僕は武器の回収に向かう。


 通路から、フロアの中を覗き込んでドラゴンの様子を確認する。


「……」

「……」

「……」


 3人で息を殺して、奴の動きを確認した。大きな翼を地面に下ろし、伏せるような態勢で動きはない。頭が身体の向こう側に向いていたので、目は閉じているのか確認できない。ただ、今のタイミングなら行けそうだった。


 ゆっくりと、音を立てないように注意しながら地面を歩いていく。視線は、伏せたドラゴンの方に向けておく。何か動きがあれば、すぐに通路の方へ戻れば良い。


 通路に隠れている2人が、心配そうに見つめてくる視線を背中で感じ取りながら、前に進む。奴は、動きそうにない。


 まだ、ドラゴンには気付かれない。もう少しで、シモーネさんの弓と筒を落とした場所まで辿り着く。


 酷い匂いが漂ってきた。昨日見た、茶色だったり赤黒い物体やら白い棒状のモノが地面の上にバラバラと散らばっている。そこから臭ってくる。


 チラッと確認してみると、人間の死体だということが分かった。僕らだけでなく、他の冒険者たちも転移トラップによって連れてこられたのか。


 しかし、妙だった。ダンジョン内ではモンスターの死体だけでなく、人間の死体も光の粒子になって消えていくはず。なのに、そこに遺体が残っていた。


 まさか生きているのか。いや、あんなにバラバラになっていたら生きているはずがない。


 死体なのに消えていない。この場所が例外だというのか。それとも、僕たちが居る場所はダンジョンの内部ではないのか。


 気になる光景を見つけてしまったが、今は考えずに武器の回収を優先する。冒険者たちの遺体をそのまま放置するのは申し訳なかったが、何もしてあげられない。まず自分たちが生き残るために努める。


(よし、回収した)


 魔法を発動させて、地面から拾い上げる音も立てずに空間の中に収納した。大剣が落ちている場所にも向かって、そこでも気付かれることなく武器を拾えた。


 これで大剣と弓は無事に回収できた。あとは、通路に戻るだけ。より慎重に、音を立てないよう注意しながら、来た道を戻っていく。


「……ふぅ」

「よく、無事で戻ってきた!」

「ありがとう、エリオット君。これで私たちも戦えるわ」

「さぁ、急いで下に進みましょう」


 何事もなく、通路に戻ることに成功。回収に成功した武器を渡して、すぐに2人を連れて階段を降りていった。

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