第40話 窮地を切り抜けるには

「昨日も言った通り上に向かう階段は、ドラゴンが居るフロアの向こうにあると思います。どうやら奴は、ずっとあの場所から動く様子がないですね。奴が立ち去るまで待つ、というのは無理のようです」


 フレデリカさん、シモーネさんが聞いているのを確認しながら、僕は自分の考えについて話した。ドラゴンが居ない間に通り抜けられないかを考えてみたけれど、そこから移動する様子がないので無理そうだった。


 気配を消して、何とか通り抜けられないかとも考えた。だが失敗した時のリスクが高すぎる。どうにも出来ない。


「けれど、向う側にある通路以外に迂回する道も見当たりませんでした。地上へ戻るためにはやはり、ドラゴンと再び向かい立ち向かう必要があります」


 今朝になってもう一度だけ、他の道がないかどうかを3人で通路を巡って探した。けれど、やっぱり見つけることは出来なかった。あのフロアを通り抜けないと、上に登るための階段がある場所に繋がる道は無いようだった。




「あの。一応、提案してみます。僕1人でドラゴンに挑戦させてもらえませんか?」

「なにっ!?」「ダメ。危ないわ」


 案の定、ソロで戦いを挑もうとするのは反対される。提案した瞬間、シモーネさんに却下された。しかし、僕は説得を試みる。


 魔力も体力も十分に休んで回復できたから、挑戦してみたいと思った。


「僕の魔法ならば、遠距離からでも攻撃できます。万が一、何か有っても逃げきれる自信はありますよ。他に方法が無さそうなら、試してみるしかありません」

「もしも何か起こって、エリオットが怪我をしてしまうような事があれば、私たちは後が無くなるだろう? そうなると、地上へ戻るのも絶望的になる」

「うーん」


 フレデリカさんが言うように、失敗してしまったときの事を考えると、まだ賭けに出れないか。うぬぼれでもなく、魔法使いという便利屋として様々な活躍をしている僕が再起不能になれば、2人の生還も絶望的になってしまうと思うから。


「それに、女である私が男の後ろで隠れていることなんて出来ない」


 そっちが彼女の本音なのだろう。フレデリカさんは、頑なに僕が1人で戦うことを許可してくれない。


 


「ドラゴンには魔法が効きにくいと聞いたことがあるわ。魔法使いが苦手としているモンスターとして有名なのに、勝てる見込みはあるの? 見込みがないなら、絶対に許可できないわね」

「わかりました。他の方法を考えます」


 確かに、今の鈍った状態では100%勝てるという保証はできない。シモーネさんも僕が1人で戦うことには反対のようだ。


 やはり、ソロで戦うのは許可してもらえないか。2人が駄目だというから、勝手に戦いを挑むのは迷惑になる。他の方法を考えないと。




 もう1つ、頭に思い浮かんだ方法がある、時間干渉の魔法で一気に突っ切ること。時間を止めて、僕が2人を運んで逆側の通路まで逃げ込む。1日休めたので、魔力も体力もだいぶ回復していた。だから、試してみる価値はありそうだと思った。けれどすぐに僕は、自分で考えを却下する。


 実行に移せない理由は、2つあった。


 1つは、時間干渉の魔法を発動させるためには尋常じゃない程の集中力が必要だ、ということ。


 昨日は危機的状況に陥っていて、今思い出すと自分でも驚くぐらい集中することが出来ていた。通路まで逃げ切ることだけに集中をして、干渉が一度も解けることなく無事に発動できた。しかし、同じ事をもう一度やれと言われても、出来るかどうかは疑問だった。


 つまり、今度はドラゴンを突っ切っている途中で魔法が解けてしまうかもしれないという懸念があった。




 もう1つの問題は、時間干渉の魔法を発動させるためには異常な量の魔力と体力を使うということ。


 かなり便利な魔法だけれど発動させてしまうと、かなり魔力を消費する事になる。この時間干渉の魔法、止めている時間が長くなるにつれてどんどん魔力が消費されていき、時を止めることで発生する灰色の異常な空間によって体力も奪われていく。


 ドラゴンが居座っている場所を通り抜けて向こう側へ行こうとすると、昨日よりも遠い距離を移動する必要がある。昨日に比べて、大量の魔力と体力を消耗することになりそうだった。


 魔力が尽きずに、あそこまで行けるかどうか。


 昨日は、一か八かで全魔力と体力を消費して近くの通路まで逃げるのに成功した。だけど魔力と体力をほぼ全て消耗して、その後の僕は何もできなくなってしまった。


 あそこまで辿り着けるのか。辿り着けた後も不安だった。


 向こう側の通路にモンスターは居ないことを、既に探知魔法で調べている。だが、その先はどうか。モンスターが待ち構えていたら、対処できそうにない。逃げた先にまた、トラップが設置されているという可能性もある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る