第39話 テント
人間もエルフも、疲れていると判断能力が鈍る。僕の提案した、寝袋で二人一緒に寝るという意見があっさりと通ってしまった。
言っておいてなんだけど、今日初めて出会ったばかりの女性と一緒の寝袋で寝る、というのはどうなんだろうと思った。けど今は緊急事態なので、少しでも早く多くの時間を休んで体力を回復するために、という配慮をしてくれているのだろうと思う。フレデリカさんは断らなかったし。
「やっぱり、ちょっと狭いですね」
「あ、あぁ……」
フレデリカさんが先にテントの中で、寝袋に入った。その後から、僕も寝袋の中に入っていく。2人が同じ方向を向いて、僕の背中と彼女の胸とお腹が接触するような姿勢で横になっていた。身体が密着して、少し窮屈だけれど眠れないことはない。
目を閉じると、丁度いい具合の暖かさでウトウトしてくる。これは、すぐ眠れそうだと思った。そんなタイミングで、背を向けた僕の身体を後ろから腕を回してギュッと抱きしめてくるフレデリカさん。この姿勢が、なかなか収まりが良いということで僕はそのまま何も言わなかった。抱きしめられたまま、大人しくしていた。
「……ぅん?」
目が覚めた。いつの間にか、眠っていたようだ。寝ている間に、少し汗をかいた。肌にベタついた不快感を感じながら、昨日の出来事について思い出す。そういえば、見張りの交代はどうなったのか。
「あれ? シモーネさん?」
「起きた?」
僕の身体を抱きしめていたのは、シモーネさんだった。いつの間にか変わっていたようで、彼女が寝袋の中で僕の顔を覗き込んでくる。
「あ、はい。もう起きました。いつの間に? と言うか、フレデリカさんは?」
「ふふっ。エリオット君は、よっぽど疲れていたのかぐっすりと眠っていたからね。見張りは今、姉さんが1人でやってくれているわ」
どうやら、寝過ごしてしまったようだ。しかも、フレデリカさんが起きた時に僕は起きなかったようで、ずっと眠ってしまっていたようだ。
「ご、ごめんなさい。見張り、すっぽかしてしまって……」
「良いのよ、エリオット君は戦闘とか食事とか休憩に使う道具とか。これまで本当に色々と助けてもらったから。これぐらいは、全然構わないわよ。私たちは、少しでもエリオット君に受けた恩を返そうと思ってたから、ゆっくり休めて良かったの」
寝過ごしてしまったことを謝ると、シモーネさんが微笑みを崩さず許してくれた。起きた瞬間は申し訳ない気持ちで一杯だったけれども、彼女の優しい微笑みと言葉で落ち着いた。ぐっすりと休めて、魔力と体力は十分に回復できていた。
「じゃあ、そろそろ寝袋から出ましょうか」
「あ、はい」
シモーネさんも休憩をとった後だったようだ。僕だけ2人に比べると時間いっぱい休ませてもらったらしい。これは、後で恩返しのために頑張って活躍しないとなぁ、と思いながらシモーネさんと一緒に僕も寝袋から出る。
「おはよう姉さん。見張り、お疲れ様」
「おう、2人とも起きたのか。グッスリ眠っていたな」
「すみません、寝過ごしてしまいました」
「休めたか?」
「はい。体調はバッチリですよ」
「私もぐっすり。休めたわよ」
「それなら、問題ない」
テントの前で、見張りをしてくれていたフレデリカさんにも謝った。彼女も、僕を責めるような言葉を一切、口には出さなかった。
睡眠欲を満たせたので、今度は食欲が湧いてきた。朝食の準備を進めつつ、昨晩の様子を聞いてみる。
「僕が休んでいる間、大丈夫でしたか?」
「あれから、奴以外のモンスターは現れなかったな」
「アイツはフロアから動きそうにないから、一晩なんとか安全にやり過ごせたわね」
朝食の準備と言っても、収納してある空間から加工されている食品を出して2人に渡すだけ。ちゃんとした料理を振る舞いたいが、この場所で火を使って調理をするとモンスターたちが匂いや光に反応して寄ってくる可能性がある。時間もかかるので、料理するのは止めておく。無事に地上へ帰れたのなら、その時には2人に僕の自慢の手料理でも振る舞おうかな。
すぐに朝食を済ませて、寝袋とテントなどの野営道具を全て空間魔法で片付けた。自由に動き出すことが出来るようになってから今後の事について、3人で相談する。
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