第38話 一夜を明かす
幸い、僕は空間魔法の使い手なのでアイテムを自由自在に持ち運べるという便利な特技があった。空間の中には食料や野営道具など、ずっと昔に収納したままのモノが残っていたので、それらを引っ張り出してきた。これを今回、活用する。
まさか、こんな状況で使うことになるとは予想もしていなかったが、残しておいた自分に感謝だ。
「これでテントを張って、休みましょう」
「一度、ここで休憩を取るのね」
「危なくないか?」
「分かりません。でも今は、モンスターが接近してくる様子は無いので回復するのを優先しましょう」
通路の中に、急いでテントを建てた。ここで休むことが出来る。
このフロアには、あのドラゴンが居るからなのか、他にモンスターの気配はない。下から登ってくることは稀だから、警戒するのは一方向で事足りる。ここで休んで、万全の状態にしてから行動するのが良さそうだと僕は考えた。
「とりあえず、誰か1人はモンスターが近づいて来ないか見張っておこう。その間に残り2人が寝て体力を回復させる、というのが良いと思う。どうだ?」
「それなら、私が先に見張り役を請け負うわ。エリオット君と姉さんに比べて、私はまだ少し余裕があるから。先に、2人が休んでちょうだい」
フレデリカさんとシモーネさんの2人で、話がドンドン進んでいく。さすが、普段冒険者として活動している2人だった。気持ちを切り替えてから、落ち着いている。テントも建てて、誰から休むのかについて話し合いが行われた。
「そうか。じゃあ私とエリオットが、先に休ませてもらおうか」
フレデリカさんが瞬時に判断して誰から休むのか、すぐに順番は決まった。
「これを使って下さい」
「ありがとう。寝袋と地面に敷くマットまであるのか!? これは、休めるな」
僕らがいる場所は気温が低く、少し肌寒くなってきていた。そのまま寝ようとすると、地表に体温がじわじわと奪われてしまいそうだ。そうなると、寒さで体力回復もままならない。より良い睡眠をとるために、空間魔法から道具を取り出して渡した。フレデリカさんは、ありがとうと言って受け取る。
取り出したのは僕が昔、世界を旅していた頃に使っていた寝袋である。体感温度を上げて暖かく眠れる寝袋と、敷くと地表の冷たさを回避できるマット。非常に有用な道具だった。
「ただ、この寝袋は一人用なので僕も見張りします。先に、フレデリカさんが休んで下さい」
「え?」
ソロで活動していた僕は、一人分の寝袋しか持っていなかった。残念ながら予備は持っていない。こんなことなら、用意しておけばよかった。
「うーん……。それなら私より、エリオットが先に休むほうが良いだろう。私よりも疲れているだろうし。元々、お前の物だから先に使う権利があるだろうからな」
「いいえ、そんな! フレデリカさんが使ってくださいよ」
フレデリカさんは僕に遠慮して、先に寝袋を使って休むように言ってきた。だけど今日は、モンスターとの戦いでとても大変な前衛を務めてくれて、体力を一番使って必死に頑張ってくれたフレデリカさん。彼女を差し置いて、先に休むのは心苦しい。
「いやいや、フレデリカさんが先に休んで下さい」
「ダメだ。エリオットが先に休め。男の子なんだから、ちゃんと身体を労って」
「どっちでも良いから、早く休んで。見張りは任せて、ゆっくり眠りなさいな」
しばらくの間、どちらが先に休むのか譲り合いになってしまった。シモーネさんも待たせることになるから、早く決めて休まないと。
テントは建ててある。その中に入れば多少は暖かい。だから、寝袋を使わず寝ても大丈夫だろうなんて、フレデリカさんは言っている。
ちゃんと暖を取って休まないと、体力を十分に回復させることが出来ないかもしれない。そう言うのなら、僕が先に使って休め。自分は後からで大丈夫だから。だが、そんな時間は残されていないかもしれない。いつ、どこからモンスターが襲ってくるのかも分からない。だから休める時に、分担して休んでおきたい。
という感じで、誰が寝袋を使って休むのかについて話し合いが続いた。こんな議論は不毛だ。話している間に、どんどん時間が過ぎていく。早く休んでおきたいのに。
だから僕は、こんな提案をした。
「それじゃあ狭いですけど、一緒に入って休みましょうか? それなら1つの寝袋で2人が休むことが出来ます。時間も短縮できますよ」
「ぅぇッ!?」
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