第37話 退路は

 トラップにより転移した瞬間、ドラゴンを発見して切り札の魔法を使って逃げた、という経緯を2人に説明した。


 フレデリカさんが、何故ドラゴンへ立ち向かっていったのか。それに関して、話を聞いた。どうやら、僕とシモーネさんの2人が火炎に包まれた瞬間を目撃して、もうダメだと思ったらしい。敵討ちとして、フレデリカさんは死ぬ気でドラゴンに特攻。せめて一発くれてやって、散るつもりだったらしい。


「生きていて、本当に良かった……」


 僕ら2人が生きていたことを、涙ながらに喜ぶフレデリカさん。それは、僕も同じ気持ちだった。生き残ってくれて、本当に良かった。そして彼女は、後悔していた。


「本当に、すまない。私が発動させてしまったトラップのせいで、2人を危険にさらしてしまった……。私のせいだ……」


 フレデリカさんがうなだれて、弱々しい言葉で謝罪をする。確かに、こんな状況になったキッカケは、あのトラップだった。しかし……。

 

「あれは、仕方がないと思います。運が悪かった。おそらく、フレデリカさんさんが原因、というわけではないと思います」

「私も、トラップが発動するまで気が付かなかった。姉さんのせいじゃない」


 シモーネさんによると、今まで何度もリーヴァダンジョンで2人が狩場にしている10階層まで潜ったけれど、その道中にトラップが仕掛けられていた事なんて一度も無かったという。そんな話を、他の冒険者からも聞いたことがないらしい。だから、トラップに対する警戒心が薄れていた。


 他のダンジョンだと、踏むと足を挟んで怪我をしてしまうトラバサミ、矢が飛んで来るスイッチなど物理的なトラップを避けてきた。だが、魔法陣が発動するトラップなんて見たことが無かった。高難易度のダンジョンにしか存在していないから、話に聞いたことがあるだけ。


 こんな場所に転移の魔法トラップがあるなんて、予想外だったという。


 発動させてしまったのは、前衛で一番前を進んでいたから。運が悪かったと諦めるしかない。シモーネさんは、姉のフレデリカさんを慰めいていた。




「存在しなかった、未知のトラップ……」


 今までに無かった、不思議なことが起こっている。


 入り口で警備をしていた兵士の言っていた、最近モンスターが活発になっている、という話を思い出した。急に、ダンジョンに現れた未知のトラップ。凶暴化しているモンスターたち。何か関係があるかもしれないと感じるが、どんな原因や理由があるのかについては、まだ分からない。無関係だとは思えないが……。


 今は、そのことについて考えている余裕はないか。僕は、思考を切り替える。


 


「ダンジョンで起きることなんて、誰にも予想することは出来ませんから。それより今は、次に僕たちはどうするべきかを考える必要があります」

「そうね。彼の言う通り」

「……分かった。どうしようか?」


 ダンジョンでは、たびたび不思議な事が起こる。例えば、ダンジョン内部の構造がある日突然、変わっていたり。今回のような、転移トラップみたいな高度なワナじゃないけれど、見知らぬトラップが勝手に増えるということもあるらしい。


 ダンジョンの中でモンスターが死ぬと、光の粒子になる理由も分かっていない。


 反省は大事だけれど、責任追及は必要ない。理由や原因については、後で考える。僕達3人は、これからどうするべきか話し合う事に意識を向けないといけない。





 先ほど休んだおかげで、魔力と体力を少しだけ回復できた。探索魔法で周辺を探ることなら出来る状態になった。自分たちが居るフロアが一体どこなのか、手がかりを探すべく魔法を使って3人で警戒しながら周囲を探索した。




「向こうに、さっきのドラゴンが居る。気をつけて」

「わかった」

「道は、向こうにある……!」

「一旦、通路まで戻ろう」



 息を殺して、通路の先にあるフロアを観察する。まだ奴は、そこに待機して何かを待ち構えていた。奥の方には、もう一つの通路が見える。あれに気づかれず、そこを通り抜けるのは無理そうだった。


 通路を戻ってきて、逆の方向も調べてみた。すると判明した事実がある。




「フロアの向こう側の通路へ行かないと、上に戻る階段が無い?」


 僕たちの調べた結果について、言葉に発するシモーネさん。ドラゴンが待ち構えているフロアには、2つの道しか見当たらなかった。


 僕が逃げ込んできた通路の奥には、下へ降りる階段しか無かった。他の道を探してみたけれど、確認できなかった。もう一度、ドラゴンの居る部屋を通らなければ上へ向かう階段に辿りつけない事が判明した。


 結局、現在地は分からない。地上へ戻るための階段も発見できない。どうするのか議論を繰り返すが、少なくとも僕たち3人とも疲労している。これ以上、動き回って調べることは無理そうな状態だった。こんな状態では、あのフロアを通り抜ける事は出来ない。


 一度、ちゃんとした休憩をとる必要がある。すぐ地上に戻るのは無理そうだった。このダンジョンで、一夜を明かす覚悟が必要になった。

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