第35話 状況の整理

 切り札を使って2人を運び出し、何とか通路まで逃げ込むことには成功した。その通路は小さくて、ここならドラゴンも入ってこれない。近くにはモンスターの気配も無かったから、とりあえず落ち着くことが出来る。


 僕は息も絶え絶えになって、魔力も体力も使い果たして疲労困憊になっているが。




 トラップが発動して、僕たち3人は強制的に見知らぬ場所へ転移させられていた。飛ばされた先に待ち構えていたのは、伝説級のモンスターと分類されているドラゴンである。


 もしも目撃した場合には、速やかに各所へ報告するべきモンスター。国を挙げて、対応する必要がある存在だと言われている。まさに、自然災害のようなもの。


 それがなぜ、こんな王国近くのダンジョンに居るのだろうか。誰にも気づかれず、ずっとこのダンジョンに居たのか。もしかすると、僕たちはリーヴァダンジョンとは別の遠い場所に転移させられたのかも。知らぬ間に、とんでもない距離を移動したのかもしれない。


 僕らが潜っていたリーヴァダンジョンというのは初級者向けのダンジョン、だったはず。それなのに、発動すると見知らぬ場所に転移させられてしまうトラップがあるだなんて。初心者では到底、対処できないような凶悪トラップなのに。


 そもそも転移トラップというものが、ありえないことだった。空間を超えて瞬時に移動させる魔法というのは、ものすごく高度で制御が困難な技術である。


 全世界で数箇所、現存している転移ゲートについて報告されている。それ以外は、数年前にとある高難易度のダンジョンで発見されたという噂を聞いたことがあった。それぐらい希少なトラップだった。なぜ、こんな場所に。


 転移トラップを発見したとしても、それを制御するのは本当に難しい。完璧に保全しておくのは、もっと難しくて困難。そんな転移トラップが初心者向けダンジョンに設置されていて、正常に発動してしまった。


 5階層から上へ戻る階段を発見して、そこに向かう途中のことだった。


 降りてくる時には、そんな魔法のトラップは見かけなかった。もしもあったなら、絶対に気が付くと思う。それを見落とすことなんて、ありえない。


 僕たちがダンジョンの10階層まで潜ってモンスターを狩り、地上に戻ろうとする間に現れたモノだろう。


 僕の目には突然、地面から光が溢れて魔法陣が現れたかのように見えた。事前に、足元にあったというわけじゃない。直前まで、そこに何もなかったと思う。だから、対処するのが遅れてしまった。


 まるで何者かの意思によって無理矢理、転移トラップを発動させられてしまった、というような気がする。未だ謎が多いダンジョン。何が起きても不思議ではないが、初めての体験だった。もう二度と、味わいたくない体験だが。




 もしも、僕1人だけだったなら。転移トラップは、身につけていたローブが無効化してくれて、窮地に陥ることは無かったかもしれない。


 ローブが無効化出来ずに転移してしまった場合には、ドラゴンと戦う準備が整ってないだろうから戦わないように一時離脱する。まずは、立て直しを図るだろう。


 それから改めて、戦闘の準備を整えてドラゴンと戦っていたと思う。ドラゴンには魔法を弾く鱗があるので、魔法使いは不利だ。けれども、動きは単調で読みやすい。細心の注意を払い、攻撃を避け続けながらドラゴンが倒れるまで得意の魔法で攻撃を繰り返し続けるだけ。


 ドラゴン戦では、ヒットアンドアウェイがとても有効だと思う。だから、長期戦に持ち込めば大変だけど勝てるモンスターだった。僕も過去に何度かドラゴン戦を経験しているので、倒しきる自信もあった。

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