第34話 時空干渉魔法

 通路へ逃げ込んで、しばらく進んだ先で2人を地面に下ろした。幸い、この辺りにモンスターの気配は無かった。そろそろ残りの魔力は少なく、体力も限界だった。


 このままでは、強制的に時空干渉の魔法が解けてしまう。


 フレデリカさんが握りしめていた大剣と、シモーネさんが装備していた弓などは、逃げてくる時に失くしてしまったようだ。おそらく、ドラゴンが暴れていたフロアに落としてしまったのだろう。これから戻って回収している時間は、無さそうだった。


「くっ!?」


 遅くなっていた時間の流れが、普通に戻った。灰色だった景色、肌に当たる空気、音のない世界が元に戻る。そして僕は、魔力と体力を限界ギリギリまで消耗した。


「はぁ、っはぁ、はぁ」


 魔力は空っぽで、体力も底をついていた。そして、心臓が爆発を繰り返すように、ドンドンと脈打っている。肺が新鮮な空気を要求するので、口を大きく開けて必死に荒い呼吸を繰り返す。他に何も出来ない、行動不能だった。


 案の定、切り札の魔法を使った後は戦闘が出来ないぐらいに消耗した状態になってしまった。しかし、2人は無事である。大きな怪我もなく、ドラゴンとの戦闘からは離脱できたようだ。それだけで、奥の手を出した価値はあったか。


「……っ、エリオット!」「エリオット君!」


 時間操作が解かれて、時間は元に戻る。その瞬間、何が起こったのか分からない、といった表情を浮かべていた、フレデリカさんとシモーネさん。


 僕がへとへとになって地面に座り込み、息を荒げているのを見て2人は声を上げていた。とても心配してくれている表情。


「これは一体……? 私はさっき、死ぬ気で敵に突っ込んだはず。そして返り討ちにあった。なのに、どうなっているんだ?」

「さっき、私たちが居た場所とは全然違う。エリオット君が何か魔法を使ったの?」

「ハァッ、フゥ、ハッ、ハッ、ハッゥ」


 僕は、彼女たちの疑問に返事できないほど呼吸が早くなっている。息が荒れていて言葉で答えられないので、シモーネさんの疑問に頷いて反応する。ここまで、魔法を使って逃げてきた。


「シモーネ、周囲の警戒をしよう。モンスターが近くに居ないか見張るぞ」

「分かったわ、姉さん。エリオット君は、ゆっくり休んで」


 僕の様子を見て、話せるような状態じゃないと分かったのだろう。2人は会話するのを止めて意識を切り替えると、周辺の警戒をしてくれた。それは、とても助かる。どこから凶暴なモンスターが接近してくるのか、予想できないから。


 しかし2人は、武器を失くしてしまった。今は無手の状態。接近する敵を発見したとしても、立ち向かうのは難しい。僕たちはまだ、とても危険な状態のままだった。逃げてきた先も、安全なんかじゃない。


 ひとまず僕は、消耗してしまった魔力と体力の回復を優先したい。どうにかして、事態を立て直さないと。


「はぁ……ふぅ……」


 呼吸を整えながら、これから一体どうしようか考える。ドラゴンから逃げることは出来たけれど、逃げ切れたわけではない。まだ自分たちがどこに居るのか、把握していないから。どこへ向かうべきか。魔力も体力も使い果たしてしまったから、出来る行動も少ない。


 これから先を不安に思いながら、僕は回復に専念した。

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