第31話 彼女のタイムリミット《魔法研究所の所長》

 ドゥニーズが、研究所の状況を把握していないのは過程に興味がなかったからだ。彼女が欲しいのは結果だけ。それだけで、所長の地位を得ることが出来たから。そのせいで、良好な研究結果を持ってくる部下たちを優秀だと過信していた。そんなことに、今さらだけど気が付いた。


 実はドゥニーズは、エリオットが男であることも知らなかった。最初から憎しみの目を向け続けていたから、彼のことを詳しく知ろうともせずに今まで過ごしてきた。彼の研究成果だけに興味があって、それだけに目を向け奪い続けてきた。そして今もまだ知らないまま。




 せっかく奪い取った、奴の残していった最後の研究結果。王都防衛用の結界魔法を制御する装置が起動しない。ドゥニーズにとっては絶対に解決しなければならない、大きな問題だった。


 なんとしても、装置を起動させなければならなかった。新技術を発表する催しが、一週間後に計画されていたから。すでに多くの権力者たちの参加が予定されていて、今から中止には出来そうにない。かといって、発表を予定していた内容について問題あったと公表すれば、面目丸つぶれ。


 昨今のモンスターが増加している問題について、対策するための方法を考案したと言い放ってしまったから。状況は既に動き出してしまっている。これを失敗すれば、所長の地位も失ってしまうかもしれない。


 なんとかして、新技術の発表会を行う日までに装置を起動する方法を考え出さねばならない。


「やはり、行方不明になったあの方を捜索するしか、他に方法はありませんよ」

「……」


 研究員で装置を調べても、起動しない原因については解明できない。出来るはずがないと、女性は確信していた。エリオットが居なければ、問題は絶対に解決しない。そう告げる。


 ドゥニーズは考える。せっかく追い出した奴を、研究所に連れ戻すしかないのか。それ以外に、何か方法はないのか。女性の言っている通りで、奴を連れ戻す以外には今回の問題を解決する手立ては思いつかなかった。


 だからドゥニーズは仕方なく、重くなった口を開いて言った。


「……なら、早く探し出しなさい」

「探そうにも情報がありません。所長は、あの方について何か知りませんか?」


 彼女はそう言って、探るような目でジーッと所長を見つめる。行方不明になったと王国に報告したのは、ドゥニーズであることを知っていたから。


「私が、奴の居場所を知るわけないでしょ」

「そうですか。了解しました」


 報告を終えた女性は、速やかに部屋を出ていった。ドゥニーズは、最後まで女性の軽蔑したような視線には気が付かなかった。考えるのに必死だったから。頭の中で、どうやって思い通りの状況を取り戻そうか悩んでいる。


 奴が魔法研究所に戻ってきた場合、拒むために用意しておいたシナリオもあった。実行しなくて良かった。まだ挽回の余地が残されている。残念だが、奴を見つけ出し一度だけ魔法研究所に迎え入れよう。そして全ての問題を解決してから、再び計画を実行して排除すれば良い。エリオットの心理などは一切無視して、都合の良いように解釈して考えていた。


 コチラが手を差し伸べれば、研究員の地位を取り戻せるだろうと思って掴み返してくるだろう。それが駄目でも、情報だけは何とか引き出してみせる。


 奴を発見さえすれば、今回の問題は全て解決する。そう考え、ドゥニーズは希望を持った。




 所長の命令で、研究員や兵士たちがエリオットを探しに町へ出ていった。しかし、必死に捜索したにもかかわらず、彼の姿を発見することは出来なかった。


 まさか、冒険者ギルドを訪れ仲間と出会いダンジョンに潜っているだなんて、誰も予想しなかったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る