第30話 綻び《魔法研究所の所長》

 魔法研究所の所長であるドゥニーズは、エリオットを不当な理由で研究所から追い出した。そして、その事実を隠蔽してエリオットが行方不明になったと王国に報告。粛々と処理した。


 ドゥニーズは、魔法研究所に入所した当初からエリオットのことを一方的に嫌っていた。その理由は、エリオットが男性たちにチヤホヤされているのを目撃して嫉妬。それから、自分よりも能力が高かったから。そんな自分勝手な理由で、エリオットを敵視してきた。


 金と人付き合いで所長の地位を得たドゥニーズは、すぐにエリオットを研究所から排除しようと目論んだ。しかし、エリオットの研究所内での影響力は大きかったので思うように追い出すことは出来なかった。ドゥニーズは、危険を冒さず慎重に計画を立てた。


 そして、ようやく計画が完成。様々な条件が重なって、各方面の手回しも済んで、エリオットを追い出すための計画は実行された。結果は大成功。


 奴には、屈辱を与えて計画は完璧だと思っていた。全て計画していた通り進んで、大満足だったドゥニーズ。翌日から、魔法研究所にエリオットが居ないという日々を満喫していた。行方不明で騒がれている奴の話題を耳にするのは苦痛だけど、次第に噂も収まっていくだろうから、それまで我慢すればいい。そう考えて耐える。


 ドゥニーズの計画はまだ、続いていた。最終段階では、エリオットが残して行った研究結果を最大限に有効活用するという計画の仕上げを行う。


 これまで長い間ずっと我慢してきたからという理由で、精神的な苦痛に対する賠償としてエリオットが研究してきた新技術や知識、資料の数々を奪い取った。彼女は、それが正当な理由による行動だと思い込んでいた。


 自分は正しい。だから私が、残して行った研究結果をいつものように有効活用してあげる、と彼女は傲慢に考える。


 全ては、ドゥニーズが計画した通りに事が進んでいる。はずだった。




「なに?」

「ですから先ほども説明した通り、装置を起動させることは出来ません」


 所長室で立派な椅子に座っているドゥニーズ。彼女は顔をしかめて、女性の報告を聞いていた。耳に入ってきた言葉に納得できず、聞き返す。それを面倒そうに女性は再度、状況の報告を行う。


「なぜ?」

「装置が起動しない原因は不明です。エリオット様が残して行った資料を確認して、なんとか装置を起動させようとしましたが不可能でした。魔力不足ではありません。どこか破損しているのか。それともまだ、装置は完成していないのか」

「……いちいち、奴の名を出さないで」

「はい。ですが、あの方に確認してみるしか他に方法はありませんよ」


 報告している女性は、かつてエリオットの部下だった。彼女は不満そうな表情で、魔法研究所の所長であるドゥニーズに従っていた。


「本当に、他に方法はないの? 残っていた資料を確認して、問題を解決することは出来ないのかしら?」

「あんな難解な資料では、誰も理解できませんよ」


 いつもなら、エリオットによる誰にでも分かる程度に噛み砕いた技術解説の資料が作成されていたはず。本当なら、それを参考にして新技術についてを理解していく。その資料が無い、となると誰も理解することは出来なかった。


「なぜ? 我が国は、最高峰の魔法技術をマスターした優秀な者たちばかりのはず。それなのに誰も理解出来ないなんて、ありえないじゃない」

「恐れながら申し上げますが、あの方が居てくれたからこそ我が国の魔法技術は発展してきたんですよ。魔法技術の最高峰に立っているのは、あの方です。他の者達は、遠く離れた位置にいるだけ。あの方の足元にも及びません」

「ッ!? そんなはずない! 奴以外にも、優秀な人材はたくさん居るじゃない」

「いいえ。他の者たちは、手助けがあったからこそ活躍できていたんですよ。魔法を扱うのは得意のようですが、研究や魔法理論を扱うのには向いていないと思います」


 現在の状況について全然把握していなかった所長に対し、女性は唖然としていた。そんなことも知らなかったのか、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る