第29話 戦闘、帰り道、そして

「そろそろ、地上に戻ったほうが良いか?」

「そうね。エリオット君も、疲れたでしょうし」

「まだ僕は大丈夫ですが、時間的に丁度いいですよね」


 戦闘が合計3桁ぐらいの回数に入るか入ったか、フレデリカさんが地上への帰還を提案。かなりの数の戦闘を繰り返した結果、みんなも少し疲れているかもしれない。時間も遅くなってきたから、日付が変わる前に地上へ帰りたい。今から戻れば、間に合いそうかな。


「収穫は十分。思っていた以上に、ドロップ品が手に入ったからなぁ」

「あれを全部換金したから、私たちの稼働1ヶ月分ぐらいは稼げそうよね」

「とりあえず、地上へ帰りますか」


 ドロップ品が大量に手に入ったので、3人で山分けにしても潤沢な額になるだろうと思う。それだけあれば旅費には十分。道具や生活用品など、旅に必要なものを買い集めてもお釣りが出そうだ。3人の意見が一致して、地上へ戻ることになった。


 


 帰還ルートは、なるべく敵と遭遇しないように探知魔法で経路を探りながら進む。戦闘していると、時間が掛かってしまうから避けていく。


「いやぁー。エリオットが居てくれらから帰りも、ものすごく楽だな。帰りの道まで魔法を使って、モンスターが居ない道を案内してくれるなんて。ありがとう」

「大丈夫? 魔法の使いすぎで、疲れてない?」

「まだ、全然大丈夫ですよ」

「凄いなぁ。頼りになる」

「無理だったら、正直に言ってね」

「はい。まだまだ行けますよ。次は、こっちの道を進みましょう」


 敵を避けながら、地上へ向かう階段を探して歩いている途中。色々と負担をかけて申し訳ないと、姉妹に言われた。むしろ、彼女たちが僕とパーティーを組んでくれて助かっていた。


 彼女たちの持つダンジョンの豊富な知識、息の合った連携で戦闘の負担が減った。道中では、他人が居ることでソロで行動する時に比べて安心感があった。


 今まで、パーティーを組んで行動すると人間関係が煩わしいかもしれない、という理由で避けてきた。実際に組んでみれば、思っていたよりも他人と一緒に居ることが苦痛ではなくて、むしろ安心感が得られるんだと実感した。


 まぁ、これはクロッコ姉妹と僕たちの相性が非常に良かった、ということなのかもしれない。仲間と一緒にダンジョン探索するメリットを考えると、姉妹とパーティを組めたという事は、僕の方にも色々と得るものがあった。


 そんな風に、地上へ帰っている途中で僕は思った。彼女たちと一緒にダンジョンを探索できて良かった、と。




 彼女たちと楽しく話していた最中に、ソレは起こった。十分な収穫を得て、楽勝な戦闘ばかり繰り返した帰り道だったからだろう。僕たちは、慢心していたのかも。


 気が付いたのは、先行しているフレデリカさんがキッカケだった。5階層フロアに到着して、地上まではあと半分。地上へ進む階段がある場所まで、目と鼻の先というところまで来た時。フレデリカさんの足元から、白い光が溢れた。


「ッ!」


 足を止めたフレデリカさんが、顔の前に腕を交差させて防御する態勢をとる。僕とシモーネさんが少し離れた後ろに立っていたので、その光景がよく見えた。


「姉さんっ!」

「危ない!」


 フレデリカさんの足元に、正体不明の魔法陣が現れた。彼女は、何らかの罠を発動させてしまったようだ。


 地面に現れた魔法陣が、一瞬で輝きを増していった。何かを発動する寸前のように見える。


 次の瞬間には、フロア全体に魔法陣が広がったために発動させた人間だけでなく、フロアに立っている全員を対象にした大きな罠のようだった。僕も、シモーネさんも対象にされた。これは、逃げ出せない。


(クッ! 不味いッ! これは転移系の魔法だ。魔法のトラップなら、このローブが無効化してしまうかもしれない)


 正体不明の魔法陣を瞬きする間に観察した僕は、転移系の効果を発動するトラップであるということを理解した。しかし、どこに飛ばされてしまうのか分からない。


 僕は、色々な効果が付与されたローブを身に着けていた。このローブには、素顔を隠す他にも、様々な効果を付けて魔法的なカスタマイズをしている。そして、様々な効果の中には外部からの魔法攻撃や効果を無効化するというものがある。


 魔法陣の効果を無意味にしてしまうかもしれない。僕が1人だったら、何も問題は無い。しかし、今はパーティーを組んで行動していた。他の2人をどうするべきか。


「駄目だっ、逃げろッ!」

「いやっ! 姉さん!」

「ッ! くそっ!」


 ほんの一瞬、判断が遅れてしまった。魔法陣を無効化する方法は間に合わない、と判断する。手を伸ばすシモーネさんの横で、僕は咄嗟にローブを脱ぎ捨てた。同時に杖を前に掲げる。


「これだけでもッ!」


 視界全体が真っ白になる中、せめてこれだけでもと思って2人に向けて防御魔法を発動させた。何かあれば、魔法が守ってくれるはず。彼女たちに効果が発動したのかどうかを確認する前に、僕の意識は途切れた。

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