第23話 入場!ダンジョン探索
「こんにちは」
ダンジョンの入り口に到着した。空間魔法で収納しておいた証明書を取り出して、出入り口付近を警備している兵士に声をかける。
「ダンジョンか?」
「そうです。確認を、お願いします」
高圧的な態度の兵士から短く一言、問いただされる。まぁ兵士だから、そんな態度でも仕方ないのかな。そう思いながら、ギルドで発行してもらったダンジョンの入場許可書を手渡した。
兵士は木板を受け取り、腰に下げていた道具を手に持つ。その道具に木板をタッチして、なにかチェックしていた。あれで、偽物じゃないことを確認しているのかな。兵士が持つ道具から、魔力の流れを感じる。
「冒険者の証明書は?」
「あ、はい。どうぞ」
「後ろの2人は、結構」
「「……」」
かなり厳重にチェックされる。先ほど再発行してもらったばかりの冒険者証明書も兵士に見せることになった。ダンジョンの立ち入り許可書だけで、中に入れるのではないのかな。昔は、もっと簡単に入れたと思うが。ルールが変わってる?
そしてなぜか、フレデリカさんとシモーネさんの2人は提示を求められなかった。取り出そうとした瞬間に、バッサリと兵士が一言だけ口を開く。2人は黙っていた。
「君は、男性だったのか。すまない。気が付かなくて、私としたことが女性としての振る舞いが出来ていなかった」
その兵士は、冒険者の証明書を確認して僕の性別を知ったようだ。性別が判明した瞬間、一気に態度が軟化した。よくあることだった。
「いえ、大丈夫ですよ。多分このローブのせいですね。このローブに魔法がかかっているので、僕が男だということを気づかせないようにしてるんですよ」
「なるほど、それは自衛のためなのか。男性なのに冒険者をしているぐらいだから、そういうことも自分で出来るということか」
このローブには僕の手作りで、意識を逸らす魔法、ローブを被った時に顔の部分を暗くする魔法などの効果を付与している。
これを身にまとえば周囲から気づかれにくくなったり、気づいたとしてもローブの中は暗くなっていて、奥にある顔が見えなくなる。それにより、僕は素顔を隠す事が出来るので性別を隠すことが出来ていた。
男が重宝される世界だが、逆に希少だからこそお金になる。カネ目当ての人攫いに狙われる危険性があった。
ソロでの行動が多い僕なんかは人攫いの格好の餌食にされることも多かった。身に着けているローブは、危険な目に合わないようにするための危機回避の手段の一つである。戦って返り討ちにすることも出来るけれど、人攫いの数も多く面倒だったので日頃から自衛をして、なるべく危険を回避するというのが無難だった。
「おい!」
「はいッ!」
「これ、チェックしろ」
「了解」
入場許可書と僕の証明書を確認し終えた兵士は、近くに立っていたもう一人の兵士にも確認するように命令して渡す。ダブルチェックで、間違いが無いようにするためだろうな。
命令された方は、まだまだ見た目の若い女性。上司と部下、という関係なのかな。若い兵士が入場許可書をチェックしている間、ちょっとした質問をされる。
「ダンジョンには、どのくらい潜るつもりだ?」
「今日1日だけの予定です。夜になれば帰ってくると思います」
兵士の視線は僕にだけ向いていて、後ろの姉妹はチラと一瞬だけ見た。その後すぐ僕の顔に目線を戻す。だから、僕が率先して兵士の質問に答えていた。
「最近、モンスターが増加している。気をつけるように」
「そうらしいですね。気をつけます」
「先ほど帰ってきた冒険者が何名か、重症を負っていた。十分に警戒しておけ」
「はい」
どうやら最近、ダンジョン内のモンスターが増えているという。噂で聞いて知っていたけれど、現場の人間も忠告してくるほど。間違いの無い情報のようだ。ここでも何人か冒険者たちが重症を負っているとのこと。幸い、死亡者は出ていないそうだが兵士から十分注意するように言い含められた。
「後ろの2人は、くれぐれも無理をしないようにな。そして、彼に怪我の無いように十分注意すること。分かったな?」
「言われなくても、分かってるわよ。彼は、傷一つ無いように守るわ」
「あぁ、その通り。無事に何事もなく戻ってくるさ」
兵士が後ろに待機していた2人にも声をかけた。と思ったら、少し高圧的な態度で2人に忠告していた。お前たちだけだと心配、というような意味が含まれていそうな言葉だった。
兵士の横柄な態度に負けないような勢いで、シモーネさんは言い返す。その後に、フレデリカさんも。
フレデリカさんと兵士が正面から向かい合い、視線を交差させている。少しばかり空気がピリッと、緊張したような雰囲気が生まれた。
そんなタイミングで、入場許可書を確認していた兵士が口を挟む。
「チェック完了、問題は有りませんでした。どうぞ」
「あぁ」
確認を終えた兵士は、僕らと話していた兵士に入場許可証を手渡した。最後にもう一度だけ目を通して、彼女はダンジョン入場許可書を返却してくれた。
「入ってよろしい。何度も言うようだが、十分気をつけるように。ご武運を」
厳重なチェックを終えて、ようやくダンジョンへと足を踏み入れる僕たち3人組。無駄に長かったな。
「それじゃあ、張り切って行きましょうか」
「よっしゃっ! 行こう」「えぇ」
僕の掛け声でテンションを上げたフレデリカさんは、一番先頭である前衛の位置に立った。
シモーネさんが淡白な返事とは裏腹に、気迫のこもった瞳で弓を取り出していた。何時でも矢を撃てるように、準備は既に完了している。
そして僕は、空間魔法で仕舞ってあった戦闘用の杖を取り出すと臨戦態勢を整え、地下にあるダンジョンへ向かって歩き始めた。
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