第17話 ダンジョンへ行く前に

「さぁ、行こうか!」

「行きましょう」

「2人共、チョット待ってくれないか」


 冒険者ギルドの建物を出た後すぐ、ダンジョンへ行こうと気合を入れている2人を呼び止める。2人から、キョトンとした表情を向けられた。奮い立っているところで申し訳ないのだが、向かう前に抑えておくべき大事な点がある。


「ん?」

「どうしました?」

「ダンジョンへ向かう前に、まずは自己紹介から始めよう」


 これからダンジョンを攻略するためのパーティーを組んだ僕たちは、まずお互いについて知っておいたほうがいいだろう、と考えていた。


 1週間というタイムリミットはあるけれど、慌てる必要はないだろう。まだまだ、余裕がある。少し時間を割いて、自己紹介することが必要だと2人に提案してみた。この先、行く途中にある街の広場で話し合いの場を設けるのはどうだろうか、と。


「わかった」

「そうね。まずは、お互いのことを知ることから始めましょう」


 ということで、2人の了承を得たので広場まで移動した。




 その広場は人がそんなに居なくて、とても静かだった。朝の時間から少し過ぎて、まだ昼間は遠いような時間帯。都合が良いことに、広場を利用する者は少なかった。僕たちは広場の中心から離れた隅の方に陣取って、周りから目立たないような隠れた場所で話を始めた。


「さっきは、姉さんがいきなり声をかけてごめんなさい。迷惑じゃなかった?」

「え!? やっぱり、迷惑だったのか?」


 先ほどの冒険者ギルドでの最初の出会いについてを話題に、話し合いは始まった。背後からいきなり声を掛けられた時には驚いたけれど、迷惑ではなかったはず。


「いいえ。僕は、そんなに迷惑だと感じませんでしたよ。それより声を掛けてもらい手伝ってもらって、ダンジョンに入ることが出来るので助かりました」


 僕がそう言うと、姉の方の女性がニンマリという感じの笑顔を浮かべて、妹さんに向かってはドヤ顔というような表情を向けていた。


「ほら、大丈夫だって! そんなに気にしてなかったらしいよ」

「それは建前だって。彼が親切で優しい性格だから許されたんだよ。普通の男性は、あんな風にガツガツ迫られたらビックリして警戒されるに決まってるって。この前も同じように、声をかけたら無視された事があったじゃない」

「もう、その話は言うな。彼の前で話さないでくれ、頼むから」

「わ、わかったって。もう言わないから」


 再び、2人が言い争いを始める。彼女たちの言い争いは、本当に仲が悪くて険悪なムードというわけでもなかった。ふざけながら、じゃれ合っているだけという姉妹の仲の良さがあった。


「……って今はそんな事はどうでもいいよ、シモーネ。それよりも、彼に自己紹介をしよう!」


 また、仲良く2人で言い合いが始まるのかなと思って静かに見守っていたら、僕を気にしてくれたのか、すぐにやめてくれた。


「えっと、じゃあ私から」


 ニコニコと笑顔を浮かべている女性から、まず先に自己紹介をしてくれた。名前を覚えることは苦手だけど、これから仲間になる女性だからちゃんと覚えないとな。


「私は、フレデリカ・クロッコ。人族の27歳よ。で、こいつが私の3つ年下の妹」


 横に立っている女性を親指を立て、コイツという感じで指すフレデリカさん。この世界では、一番人口が多い人族。つまり人間ということ。


「シモーネ・クロッコ。不本意ながら彼女が姉で、私は妹を務めているわ」

「姉妹で冒険者をやってるんだね」

「そうね」


 本当の姉妹という関係で冒険者をやっているクロッコ姉妹。彼女たちの自己紹介を聞いて、次は僕の番だった。彼女たちの視線を、肌にビンビンと感じる。かなり注目されている。普通の自己紹介で、期待させるほどの事は話せないんだけど。


「僕はソートソンという森で生まれた男性エルフで、エリオットって言います。歳はだいたい220歳ぐらい」

「2、220さい……」

「……なるほど。さすが長寿のエルフ」


 僕の年齢を聞いて驚く2人。人間である彼女たちが聞くと驚くような数字だろうと思う。


 エルフの価値観を人間に当てはめると220歳といっても、青年と呼ばれる年頃。人間の年齢で換算すると、16歳から18歳あたりの年齢かな。もうちょっと若い、ぐらいかもしれない。エルフが長生き過ぎるから尺度が合わない。


 僕の故郷であるソートソンに住んでいるエルフ達の平均年齢は1500歳を超えていたはず。一番年上のエルフだと、とんでもなく長い時を生きてきた者も存在する。あの土地に住んでいた彼ら彼女らと年齢を比べてみると、僕はまだまだ若造だった。

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