第18話 ダンジョンに潜る理由
「やっぱり、エルフだったんだね」
「はい。エルフです」
被っていたフードを取って素顔を晒し、特徴的な長い耳を見せる。2人の視線が、僕の耳に集中する。そんな2人には僕の性別と、種族について知ってもらった。
シモーネさんたちは、先ほど僕と冒険者ギルドの受付との話を途中から聞いていたそうだ。先ほどフードを取った瞬間も、横顔と特徴的な耳を見てエルフだと気付いたらしい。バッチリと見られていたのに、視線や気配を感じ取ることが出来なかった。
やはり、研究に没頭していて腕が錆びついているのかな。これはちょっと、戦闘の勘を取り戻するが大変かもしれない。
「それで、何故1人でダンジョンなんかに? 男が1人で、危ないんじゃないか? 女でも、なかなかそんな無茶はしないぞ」
「誰か、ダンジョン攻略に慣れた冒険者に依頼を出して、護衛してもらえば良かったのに」
フレデリカさんの心配と、シモーネさんの提案。
心配だという表情で、フレデリカさんたちが聞いてきた。それを説明するのには、魔法研究所の機密などにも関わってくる話なので、どこまで語るべきか悩む。僕は、考えを巡らせながら口を開いた。
「実は、故郷へ帰る旅のための資金を稼ごうと思ってて」
「え? お金稼ぎの為に、ダンジョンなんて危ない場所に入ろうとしてたのか?」
「そうです」
王国の魔法研究所をクビになった件については、話さなくても良いかと思ったので省いた。その後の、旅費がない事については赤裸々に語る。手持ちのお金がないから稼ごうと思ってダンジョンに潜る、と当初の予定を正直に打ち明けた。
僕の答えに、あまり納得していないという表情のシモーネさん。どうしてだろう。もしかすると、エルフという種族は、名誉や地位、お金稼ぎなんて俗っぽい事を嫌うことで有名だからかな。エルフなのに、お金稼ぎ? と思われたのかもしれない。
フレデリカは、相変わらず心配そうな表情で僕を見てくる。まるで、盗賊に全てを奪い取られてしまった不幸な人を見るような目だった。そんなに困っている、というわけでもないけど。
「お金を稼ぎたい、ということはダンジョンの宝物狙いなのか?」
「いいえ、そっちじゃなくて。モンスターを倒して手に入ったドロップ品を売れば、ある程度は稼げるかなと考えてました」
「確かに、その方法なら稼げるけど……」
ダンジョン内で時々発見できる宝物は、見つけることが出来れば大金を手に入れることができる。しかし、見つけ出すのは非常に難しくて運と実力を兼ね備えてないと入手することは難しい。
それに比べてモンスターのドロップ品は、倒せば確率でアイテムをドロップする。なので、宝物より入手が期待が出来る。僕は、そのドロップ品を狙ってダンジョンの探索を進めていくつもりだった。
「馬鹿にするわけじゃないんだけど、男のあんたがどうやってモンスターをぶっ倒すつもりだったんだ?」
「武器は、何を使うんです?」
やはり、気になるのは僕の戦闘能力か。この世界に生きている男性のほとんどは、筋力が弱くて運動神経も悪く、虚弱体質という人が多いらしい。つまり、戦うことに向いていない、というのが共通認識だった。
数が少ないだけではなく、男性は弱い生き物であるという考えが一般常識にある。だからこそ守るべき存在として、各国では保護されている。男が生きやすいと思える世の中に向けて、男性に優しいルールが多い。
それに加えて、彼女たちの大きな身体と比べて僕の身体は非常に小さい。戦闘ではリーチが短くなってしまう。だから、2人から弱いと思われたのかもしれない。
だが、僕には魔法の力があった。
「僕は、魔法が使えるんですよ。腕もそこそこ良いと思うので、十分に戦えます」
自慢するようで少し恥ずかしいけれど、結構優秀な魔法使いであることをアピールしておく。これから一緒に、リーヴァダンジョンを攻略していく仲間。だからこそ、僕の実力というものを把握しておいてもらいたかった。
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