第16話 忠告
1週間のタイムリミットがあったとしても、僕の場合はダンジョン探索を一日だけの予定で考えていた。だから普通にダンジョンに潜って、地上に帰って来たらすぐにギルドへ帰還の報告をすれば問題は無いだろう。
「説明は以上ですが、他に何か質問はございますか?」
「いえ、今のところ気になる事は無いので大丈夫です」
彼女は、かなり分かりやすく丁寧に説明をしてくれた。疑問に思ったようなことは特に無い。なので問題無いと返事をして僕は頷いた。それじゃあ、もう終わりかな。建物から出ようと思っていたら、受付の女性が僕の顔をジーッと見つめてきた。何か物言いたげな表情である。
「あと、もう一つだけ……」
「どうしました?」
ボソボソっと、小声で何かを言いたそう。受付の彼女はグイッと近づくと僕の耳元で、囁くような小さな声で言ってきた。なにか、聞かれるとマズイ秘密話のようだ。というか、もう慣れたのかな。さっきまで、素顔を見ただけで気絶していた彼女が、こんなに顔を近づけてきて大丈夫なのだろうかと疑問に思いながら、耳を彼女の方に向けて聞こえる声に集中する。
「大丈夫だとは思いますが、クロッコ姉妹には気をつけて下さい」
「どういう事ですか?」
顔を近づけたナイショ話は、後ろで言い争っている姉妹冒険者たちには聞かれないようにするためだったらしい。彼女たちに気をつけろ、とは一体どういう事なのか。きな臭くなってきたのかな。でも、僕は彼女たちに対しては危機感を抱かなかった。大丈夫だと思うんだけど。
「私は、エリオット様が彼女たちとダンジョンへ行く事について大反対なのですが、ギルド受付として強制は出来ないのです。だから、忠告だけ聞いてください」
「なんでしょう?」
今日、出会ってから一番真剣な表情を浮かべる受付の女性。彼女は、気迫に満ちた顔で言ってくる。それほど、本気の忠告らしい。彼女の話を聞いてみよう。そして、なぜか僕の名前を様付けで呼んでいる件についてはスルーしておく。
「女は、獣のように本能で生きるものです。クロッコ姉妹ならば多少は安心ですが、絶対はありませんから。ダンジョンという閉鎖空間では、彼女たちも獣に変わるかもしれないと常に警戒して下さい。油断は禁物です。エリオット様ご自身が、しっかり貞操を守るように注意しておかないと、大変な事になるかもしれません」
「は、はぁ……?」
「特に、妹の方には気をつけて下さい!」
「えーっと、……わかりました」
予想していなかった類の忠告だった。つまり、彼女たちから性的に襲われないよう警戒しておくように、ということなのかな。
まぁ確かに、魔法研究所に居たときも何度か襲われそうになったことがあったな。冒険者も女性だから、ダンジョンに潜るときは注意するべきということなのだろう。でも、襲われたとしても得意の魔法で撃退できるから大丈夫だと思う。対策はある。
特に妹の方に注意をするべき、というのは真面目そうな表情の彼女の方だろうか。とりあえず、頭の隅に記憶して了解しておく。
僕が忠告を聞くと、受付の彼女は顔をスッと元の接客をする表情に戻った。そして身体を離してから、ピンとした姿勢で椅子に座り直す。
「それでは、気をつけていってらっしゃいませ。くれぐれも、怪我の無いように!」
「はい、ありがとうございました。それじゃあ、いってきます」
お礼と別れを告げて、カウンターから離れた。そしてまだ言い合いしている姉妹の冒険者たちのそばに寄る。
「ん? 手続きは終わったか?」
「ごめんなさい。私達がゴチャゴチャしている間に全部、任せちゃって」
「大丈夫ですよ。もう、ダンジョンの入場許可も受け取ったので行けます」
「なら早速、行こうぜ」
こうして僕は、冒険者ギルドで出会った2人の姉妹冒険者とリーヴァダンジョンへ向かうために建物から外へと出た。
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