第10話 とても希少な男性エルフ

 この世界には男性が少ない。その原因は未だに解明されていなかった。男が少ないというのは大昔から続いていることらしい。


 邪神の呪いによって世界に男性が生まれにくくなった、という言い伝えもあるそうだが実際のところは分からない。魔法が存在しているような世界なので、呪いによる現象もあり得ることだった。


 希少な男性たちを失わないように。彼らは守るべき存在として、女性たちに大事に保護されるというのが一般的だった。


 国や場所、種族によっては保護の限度が行き過ぎだと思うような所もある。男性は生まれた瞬間から軟禁状態にされて、死ぬまで暮らす場所、食べる物、接触をする者全てを管理される、なんて人生を送る男性も居たりするという。


 男と女の両方が居なければ子供は出来ない。だから、命を生きながらえさせるためには必要なことだと思う。けれど、過剰だとも感じる。


 僕が生まれた場所であるエルフの里も、男性が希少なので過度に保護しようとする雰囲気があった。


 エルフの男性は生まれてからすぐ、外部との接触を厳しく制限される。僕が普通のエルフだったならば、何の疑問も持たずに最期まで生涯をエルフの里で過ごしていたかもしれない。けれども僕は、普通じゃなかった。


 前世の記憶を保持したまま生まれ変わったから、この世界の常識に疑問を持った。エルフの里のあり方を疑った。


 里の外の世界に強い興味を持ちながら、生まれてから120年ぐらいエルフの里で過保護に育てられてきた。


 どうしても外の世界へ行ってみたかった僕は、エルフの族長を無理やり説得して、いろいろな条件を約束してようやく、里の外へ旅に出て行っても良い、という許可をしてもらうことが出来た。


 僕は、念願の異世界旅行を始めた。


 各地を旅していると、男性の数が少ないというのはエルフの里だけの特徴ではなく世界の常識だったという事を知った。


 その時まで、男性が少ないというのはエルフ特有の現象だと思っていた。世界中でそういう状況になっている、ということを初めて知った。人間や他の種族に比べて、特にエルフは男性の数が少ないようだ。というか、もともとエルフの数が少ない。


 そんなことを学びながら各地を巡った。その最中に、いろいろと失敗も経験した。男性に慣れていない女性が多く居るという知識も実体験を経て学んだことである。


 人間とエルフという種族の違い、それに加えて前世との違いで色々と戸惑うことも多かった。


 たくさん失敗してきたから今度からは気を付けようと学んだつもりだったけれど、前世の記憶による影響は大きく染み付いていて、なかなか直せない。未だに女性との付き合い方を間違えることも多かった。


 男性の人数が少ないという事実は、僕が思っている以上に受け入れるのが難しい。とても違和感のある常識だったから。


 今回も、彼女を気絶するほど驚かすつもりは微塵も無かった。こうなってしまってから後悔する。またやってしまった、と。


 男性であることを明かして驚かれた経験もあったから注意もしていた。だが、顔を晒す前に証明書で性別を明かしているから大丈夫だろうな、と判断をしてしまった。

その証明書に書かれている通り、男であるということを顔を見せて示すだけのつもりだった。まぁ、言い訳でしか無いか。


 僕の常識を超えて、冒険者ギルドの受付女性は男性に慣れていなかったという事を予想できなかった。


 そういえば、そうかと思い出す。昔から男性と冒険者ギルドは縁遠い存在だった。モンスターと戦ったり、ダンジョンに潜ったりするような危ない仕事だから、男性が関わる機会は皆無。依頼を出したりすることはあるけれども、冒険者として所属する男は稀らしいという話を遠い昔に聞いたことがあった。


 彼女はまさか、こんな場所に男が居るなんて! という心境だったのだろうな。

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