第6話 強敵ポテト
「それじゃあ、母さんはニコちゃんの服を作ってるわね。リュウ、しっかり教えてあげるのよっ?」
「もちろんっ!」
俺とニコちゃん、、とパルちゃんで、まずは発声練習から始めることにした。
読み書きを教えるのは、喋れることが大前提だと思ったからだ。
生まれつき喋れない人も、読み書きを習得する事は出来ると思うが、今回は5日間というタイムリミットがあるのだ。
スムーズに学習を進めるためにも、まずは喋れるようにしようと思う!
「じゃあ2人とも?俺の真似してね!、、あ!い!う!え!お!」
「キァ!イ!ウ!キェ!キォ!」
「ア!ワフ!ウ!ワフ!オ!」
「ふむふむ。2人とも、なかなか良いよっ♪今の『あいうえお』が言えるようになれば、後はそれの応用だからね。まずは今のを完璧に言えるようになろっ♪」
「キュ〜ンッ!」ワフ〜ンッ!」
こうして始まった発生練習。
それぞれの鳴き声に入っている母音はすんなり言えそうなのだが、それ以外に苦戦しそうな感じだね。
しかしこればっかりは、反復練習して口の筋肉を柔らかくするほかない。
頑張れっ!!
「はいっ、も1度〜っ?、、あ!い!う!、、
と、繰り返し練習に励んだ。
そして1時間が経過した頃、2人の発声に変化が現れ始めた。
先に変化が表に出てきたのは、やはり人型になっているニコちゃんであった。
これまでは、どうしても『あいうえお』の前に『キ』がついてしまっていたが、326回目にしてようやく完璧な『あいうえお』になったのだ!!
パルちゃんも負けじと頑張り、358回目で完璧なる『あいうえお』をマスターした。
「2人ともっ!!よく頑張ったねっ♪正直、午前中いっぱいは掛かると思ってたんだけど、まさか1時間ちょっとでマスターするなんて!!凄いよっ!!」
「キュキュ〜ンッ♡」ワフフ〜ンッ♡」
俺は2人の頭を撫でながら、健闘を称(たた)えた。
「この調子なら、今日中に五十音マスターも夢じゃないねっ!!達成出来たら、母さんにお肉食べ放題を頼んであげるからねっ♪」
「キューンッ!!」ウワォーンッ!!」
2人のこの頑張りを見せられたら、お肉食べ放題交渉くらい成し遂げてみせますとも!!
「よしっ!じゃあ次のステップだよ?今覚えた『あいうえお』が基本なんだけど、その音の前に別の音をプラスする感じなんだ。例えば『かきくけこ』の『か』を息が続く限り言い続けてみるから、聴いててね?」
「キュンッ!」ワフンッ!」
「では、、かああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ、ぁ、、ぁ、、、っすーっ!はーっ!どう?『か』の後に『あ』が居たのは分かったかな?」
コクコクコクコクッ!!
「それが分かればもうゴールは目前だよ!あいうえおの他に、残り41個を覚えるだけだからね!じゃあ今例に使った、『かきくけこ』から言ってみよーっ!」
「キュ〜ッ!」ワフ〜ッ!」
こうして『か』行から順に練習していき、お昼ご飯の前には『わ』行まで完璧にマスターしたのであった。
「お疲れ様っ♪お昼ご飯食べたら、変化技の練習と、覚えた音を使って実際に人語でお話ししてみよう。あっ、別にもう人語でお話ししても良いからねっ♪」
「う、、んっ♡」は、、いっ♡」
と、まだパッと出てはこないが、ちゃんと人語で返事をしてくれたニコちゃんとパルちゃん。
もともと俺の言葉の意味は通じていたのだから、残りの濁点・半濁点と、小さい字を使ったきゃきゅきょとかティとかファフィフェフォとかを教えれば、簡単な日常会話なら可能になるだろう。
午前中の練習を終わりにして、お茶を飲みながらひと息つく。
お茶をすすりながらも、2人で話す練習を続けていた。
とても練習熱心なのだが、そこまでして肉食べ放題を獲得したいんだなぁ。
これで交渉が不成立だったら、俺は2人に食べられてしまうかもしれん。
気を引き締めて挑まなければならないな!!
「あら?もう練習は終わりにしたの?」
「うん。一応五十音はマスターしたからね。多分今日中に簡単な日常会話なら出来るようになると思うよっ?」
「まぁっ♪それなら、今夜は祝賀パーティーしなきゃねっ♡」
「だね!ニコちゃんとパルちゃんはお肉食べ放題だよねっ!?」チラッ
「ふふっ、リュウ?それは『母さんに頼むから、頑張って練習してね?』とでも言ったのかしら?」
ぎくっ
「い、いやぁ?そんな事はあったりなかったり〜、、。」
「まぁいいわっ?2人とお話し出来るなんて、母さんも嬉しいもの♪お肉食べ放題くらい大目に見てあげるわよっ♪」
「母さん、ありがとね!、、そういえばルルとシールは何してるのかな?」
「あの子たちなら、父さんと一緒に村長さんに挨拶に行ったわ。そのまま村を一回りして、村の皆にも覚えてもらうって。帰ってくるのは夕方じゃないかしら。」
「そっかぁ。怖がらずに受け入れてもらえればいいんだけどねぇ。」
「きっと大丈夫よっ♪それに、ここで心配してても何も変わらないわよ。さぁさっ!お昼ご飯にするわよ〜っ♪」
「うんっ!」
「う、ん♪」は、い♪」
「まぁっ!うふふっ♪」
2人からの人語のお返事で、母さんはすっかりご機嫌になった。
それはテーブルの上を見れば一目瞭然である。
こんな特大ビーフステーキなんて、俺の誕生日パーティーでも見たことないぞ!?
今夜の祝賀パーティー、、牛の丸焼きとか出てきそうだよ。
さて、もうこのポジションがニコちゃんの定位置になってしまったようだが、一緒に学校に行くのであればこれは改善しなければなるまい。
学校の食堂で美少女を膝の上に座らせて、あーんさせあってる奴なんていたら、リア充爆発しろって爆発魔法を撃たれるからな。
「ニ、ニコちゃん?俺みたいに椅子に座って、自分で食べてみよっか?」
「い、、や?」ウルウルキュピーンッ♡
ああ、ニコちゃん。声まで可愛い♡
こんな天使のニコちゃんが涙目上目遣いとかっ!!
これはBL君でも嫌とは言えないよっ!!
「い、嫌な訳ないじゃ〜ん。ただ、学校の食堂でこうやってたら、俺は虐(いじ)められちゃうかも〜?」
「そ、んな、、やつ、ころ、す。ニコ、まもる、、あん、しん♡」
ふむ。ニコちゃんが守ってくれるなら大丈夫、、、っな訳あるか〜いっ!!
入学初日に殺傷事件発生なんて、学校始まって以来の大問題だよ!?
でもまぁ〜、、学校が始まるまでになんとかすれば良いか。
俺としても、ニコちゃんに食べさせてあげて幸せそうな笑顔を見てたいし!!
「わ、分かったよ。じゃあ食べよっか!」
「う、んっ♡」は、いっ♡」
俺は特大ステーキにナイフを入れ、ひと口サイズに切り分け、フォークでニコちゃんの口元へと運ぶ。
まぁ朝ご飯の時に使った裏技で、俺も美味しく頂きます!!
「はいっ、あ〜〜んっ?」
「あ〜〜〜〜〜んっ♡、、うま、、いっ♡もっ、ともっと!!」
「ふふっ♪慌てないで?」
俺は2つ目をフォークで取り、ニコちゃんの口元へと運ぶ、、前に、正面に座るパルちゃんが、あ〜んと口を開けたまま待機しているのに気づいてしまった。
「パ、パルちゃん?もしかしなくても、食べさせてほしいんだよね?」
「は、、いっ♡」
「ですよね〜、、。じ、じゃあ、順番に食べさせてあげるから、ゆっくり味わって食べてくれる?」
「う、んっ♡」は、いっ♡」
ということで、パル→ニコ→パル→ニコ→俺→パル→ニコ→パル→ニコ→俺という流れで食事を進めた。
ゆっくり食べてもらっているとはいっても、スピーディーかつ円滑にあーんさせなければ、2人は食事を楽しむことができないだろう。
食べたい時に待たされるというのは、地味にイライラするからな!
だから俺がつまむのは、2周に1回としておいたのだ。
自己犠牲乙とか思うかもしれないが、勘違いしないでもらいたい。
俺用に少し大きめに切っておいたのをつまんでいるから、2人よりは若干少ないが、せいぜい10%OFFくらいだろう。
智将と呼んでくれてもいいのだよ?ふっふっふ。
・
・
・
こうして、綺麗に特大ビーフステーキ3枚を食べきったところで、2人の食事は終了となった。
「ふ〜。2人とも満足したかな?」
「う、、んっ♡」は、いっ♡」
「それは良かった♪じゃあ、ごちそうさ、、
「ニコ、も、、やるっ♡」
まぁ、そうなるよね〜?分かっていましたとも。
しかし、俺も2人とあまり変わらない量を食べてたから、かなり満腹なんだよなぁ〜。
チラッとニコちゃんを見ると、フォークにポテトを刺して構えていた。
ポテト、、か。せめて付け合わせのブロッコリーかニンジンにしてほしかったが、、。
「は、い?あ〜〜〜、ん?」
「あ、ありがとね。あ、、あ〜〜ん?、、お、美味し〜なぁ。」ゲフッ
「よ、かった♡は、、い?あ〜〜ん?」
うぐっ、、こうなるのは予想していたんだから、肉をつまむのを途中で止めておけば良かったな。
智将と呼んでくれてもいいのだよ?とか思っていた俺を殴ってやりたい!!
俺は幸せそうにあーんしてくるニコちゃんを悲しませまいと、必死に食べ続けた。
臨界地点まであと一口、、というところで、救世主様が救いの手を差し伸べてくれた。
「ふふっ♪母さんもニコちゃんにあーんしてもらいたいわっ♡頼める?」
「う、んっ♪」
既にひと口大に切り分けられたステーキの乗った皿を持って、隣の席に座った救世主・母さん!!
ニコちゃんが母さんにあ〜んを始めたことにより、俺は過酷なあーん地獄から生還したのであった。
、、と思ったのだったが?
「は、いっ♡あ〜〜、、ん?」
ふっ、、。俺が2人に順番にあーんしていたんだから、ニコちゃんも母さんの次は俺に戻ってくるよね?
し、仕方ない!限界を超えろっ!!
俺は気合いを入れ、決死の覚悟で、ニコちゃんが差し出してきたフォークの先のポテトに挑んだ。
俺は、敗北した。
失神KO、、完敗です。
飲み込みきれなかったポテトを、ポロポロと口からこぼしながら、俺は意識を手放したのであった、、。
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