第2話 生物的ヒエラルキー
抱きしめていたおかげか、震えが治まってきたライオスキングの子供。
「ふふっ♪安心して寝ちゃったね。」
俺はライオスキングの子供の愛らしい寝顔を見ながら、これからの事について冷静に考えてみる。
真っ先に思い浮かぶ問題としては3つ。
1.父さんや母さんになんて説明するか。
2.来週から全寮制の学校に入学する事。
3.ライオスキングの遺体をどうするか。
といったところだろう。
1の選択肢は3つ。正確にありのままを話すか、適当に言って誤魔化すか、隠し通すか、、だね。
まぁこれは、帰りに歩きながら考えるとしよう。
2についてだが、1の選択肢でどれを選ぶかによって変わってくると思われるから、これは家に帰ってからにしよう。
さて、、最大の問題は3だ。
観測史上最大のライオスキングなのだから、国へ報告すれば表彰ものなのだが、研究材料にさろるのは間違いないだろう。
この子の親なんだから、ちゃんと弔(とむら)ってあげたい。
しかし、この大きさのお墓を掘るにしても、俺1人では無理がある。
ふ〜む、、。ここは自然の摂理に従って、食物連鎖の輪に入ってもらうのが無難か。
色々な生き物の栄養になれば、ずっとどこかで生きているというのと同じだと、俺は思う。
あ、、この子の名前も考えてあげなきゃだねっ♪
「とりあえず家に帰ろっか。ねっ?」
俺は林の出口へと向かっていった。
抱っこしたライオスキングの子供の寝顔を見ながら。
ガサッ!ガサガサガサッ!!
「あちゃ〜、油断してたよ。すっかり囲まれてるみたいだね。」
気配からして5〜6匹の狼系の魔物に狙われているようだ。
この林にいる狼系といえば、リトルウルフかシルバーウルフ。
リトルウルフは名前の通り小型で、余程のことがない限り人間は襲わない。
しかし、シルバーウルフは違う。
同族以外の肉なら何でも食べると魔物図鑑に書いてあった。
周りにいるのは恐らくシルバーウルフだろう。
「さて、、どうしようかな。1対1なら何とかなるかもしれないけど、さすがに群れが相手じゃね〜。」
対処法を考えながらも足は止めず、林の出口へと向かう。
シルバーウルフと思われる魔物たちは、俺との距離を一定に保(たも)ち付いてくる。
シルバーウルフは自分たちの縄張りから出ないと聞く。
林から出てしまえば、追ってこないという事だ。
後50mで出口っ!!!
、、という所で、一匹のシルバーウルフが立ち塞がった。
「はぁ、、やるしかないか。」
俺はライオスキングの子供を左腕でしっかり抱き、右手で剣を構えシルバーウルフの目を睨みつける。
次の瞬間!
ウワォーーーンッ!!!
と遠吠えをあげた。
「くっ!!」
周りのシルバーウルフに一斉攻撃の合図を出したと感じ、周囲に視線を向ける!!
、、だが、襲ってくる動きはない。
バッと正面のシルバーウルフに視線を戻すと、道の脇に伏せをしていた。
「えっ!?な、何っ!?どうなってるの??」
襲ってくると思っていた魔物から道を譲られるという、有り得ない事態に、俺はパニックに陥(おちい)る。
い、いやっ、落ち着け!!せっかく道を譲ってくれたのだから、その行為に甘えさせて頂こうではないか!!
「え、えっと、、ありがとね〜?オ、オレ通りま〜っす。」
道の脇で伏せているシルバーウルフに、ペコリとお辞儀をしながら再び出口へと足を進める。
若干の挙動不審感は出てしまったが、このまま草原まで出られれば一安心だ。
後30m...20...10......やった!!出口だっ!!
俺はバッと振り返り、後ろの様子を確認する。
ふむ。なんか、、付いてきてますよ?
6匹が一列縦隊で伏せしてますね。
俺は何かの見間違いという可能性もあると信じて、1度前を向いてから再度振り返ってみた。
うん、やっぱりいるよね。
しかも今度は、三点倒立してるぞ!?
こうなってくると、次はどんなポーズをするのか気になるところだな。
俺はもう一度前を向き、バッと振り返る!
お、おぉ。一列横隊で2本足で立って、ビシッと敬礼してる。
これはきっと俺もやらねばならないのだろうね。
ビシッ!
「う、うむ。休んで良し。」
俺は敬礼を返してから一言付け加えた。
するとシルバーウルフ達は、その場におすわりのポーズになり、何か指示を待っているような目を向けてくる。
「ちょっ、ちょっと待ってね。少し考えさせて?」
どうやら俺の言葉の意味は理解しているようだが、何故こんな事になってるんだ?
シルバーウルフが人間に懐くなんて聞いた事ないし、絶対に有り得ないよ。
と、俺はもう一つの有り得ない事象、人に抱かれてスヤスヤ眠るライオスキングの子供に気づいた。
「そっか。原因はお前かな?」
この有り得ない状況の原因は恐らく、俺の腕に抱かれて寝ている、愛らしい子猫ちゃんなのだろう。
見た目は超プリティーキュートな子猫ちゃんなのだが、実際は生物ヒエラルキーの上位にいるライオスキングなのだ。
そのライオスキングを抱っこしてる俺も、シルバーウルフ達の目から見て逆らってはいけない存在、、というのが1番しっくりくるね。
しかし、また一つ新たな問題が発生しましたよ?
ライオスキングの子供だけでも大騒ぎになるってのに、シルバーウルフまで連れて帰ったら、父さんや母さんは卒倒してしまうな。
う〜ん、、ダメ元でお願いしてみようかな。
「お、お待たせ〜。えっとね?君たちを一緒に連れて行くのは、、
「クゥ〜〜ン、、。」ウルウル、、
「、、構わないんだけど。いくつかルールを決めようと思います!」チラッ
「ハッハッハッハッ、、。」パァーッ♪
くっ!潤んだ瞳で上目遣いとかっ!獰猛な魔物だと思ってたのに、そんな目で見つめられたらギャップ萌えだよ!!
「えっと、まず一つ目。人や家畜を襲っちゃダメ!二つ目は、出来るだけ俺の目の届く範囲にいる事!三つ目、村の安全を守るのに協力する!、、守れる?」
「ワォーンッ♪」」」」」」
「良しっ!じゃあ今日からお前たちも、俺の家族だ!!俺はリュウ。よろしくなっ!」
俺は一匹一匹と握手をしていく。
まぁ見た目的にはお手をしている風にしか見えないだろうが、、。
「さて、、と。お前たちの名前も考えなきゃなんだよなぁ。まぁその前に、父さんや母さんに何て説明するかが先だよね、、。」
俺は7匹の魔物と共に家へと向かう。
家までの間に言い訳を考えてはみたものの、これだ!という案は浮かばず、既に玄関ドアの前に到着してしまった。
「クゥ〜ン。」
「ふふっ、お前達は何も心配しないで大丈夫だよ。俺が入っておいでって言うまで、ここで待っててくれるか?」
「ワォーンッ♪」」」」」」
「ありがとっ♪、、それじゃ、行ってくる!」
俺は意を決して玄関ドアを開き、家の中へと入った。
シルバーウルフ達は玄関ドアを真ん中に、左右に3匹ずつおすわりにて待機中である。
「た、ただいま〜。」
「おかえりなさい。もうすぐ夜ご飯だから、先にお風呂に入ってらっしゃい。」
「わ、分かったぁ。」
キッチンの方から母の声が聞こえてきたので、まずはお風呂に入ってこようと思う。
そうする事により、言い訳を考える時間が少しばかり増えるという訳だ。
部屋に戻り、剣をベッドの横に立て掛けてから着替えを用意。お風呂場へ。
「お前も洗ってやらないとね〜。」
脱衣所にて、俺は抱っこしていたライオスキングの子供を床に降ろし、汚れた服を脱いで生まれたままの姿になる。
「キュ〜ン、、。」
「あっ、目が覚めたね。ほらっおいでっ?」
両手でライオスキングの子供を抱き上げると、ペロッと手の甲をひと舐めされた。
「熱っ!!」
舐められた左手の甲に猛烈な熱さを感じ、咄嗟にライオスキングの子供を右腕だけで抱き抱える。
続く熱さに耐えながら左手の甲を見てみると、光り輝く可愛い可愛い猫ちゃんのイラストが浮かび上がっていた。
徐々に光が収まり熱も引いてきたのだが、可愛い可愛い猫ちゃんイラストは残るよね〜?
まぁ、ピンクの線だけで良かった。これがフルカラーだったら目立ちすぎだもんね、、。
「キュ〜ンッキュ〜ンッ♪」ペロッペロッ♪
「あははっ♪くすぐったいよっ♪」
可愛らしくじゃれてくるライオスキングの子供。
どうやら猫ちゃんイラストは、家族の証というか信頼の証というか、そういった意味を持つのだろう。
そう思えば、この可愛い猫ちゃんイラストも恥ずかしがるものではなく、むしろ誇らしいと思う!!
そんなこんなで、俺はライオスキングの子供を綺麗に洗い流してから、自分も洗って、抱っこで湯に浸かった。
気分はイクメンだねっ!
「ふー〜。どうだい?お風呂なんて初めてだと思うけど、気持ち良いか〜?」
「キュ〜ゥン♡」
「そっか♪」
うっとり大満足という顔を見て、俺は心まで癒される。
さて、いつまでもライオスキングの子供と呼ぶのはダメだよね。
この子は俺を信じて証を付けてくれたんだから、その気持ちに応える為にも、素敵な名前をつけてあげなくてはなっ!!
そのためにも、大事な確認をしなくてはいけない。
「ちょ、ちょっと失礼しますね?」
さわさわさわ、、
「キュンッ!?」
ふむ。、、無いね。女の子なら鬣(たてがみ)も無いわけだ。納得!
しかしこの確認のおかげで、方向性は決まった!ここはカッコいい名前じゃなく、可愛い名前を考えるべき!
でも、、可愛い名前かぁ〜。
鳴き声に因(ちな)んで、『キュン』ちゃんとか?
それとも愛くるしい子猫のような見た目から、『タマ』ちゃんか?
はたまた、小麦色の毛色からとって、『ムギ』ちゃん?
もしくは可愛らしいニッコリ笑顔から、『ニコ』ちゃんかな?
まぁこの4つを候補として、最終決定は本人に任せるとしよう。
「キュンちゃん?」
「、、、。」うっとり♡
「タマちゃん?」
「、、、。」うっとり♡
「ムギちゃん?」
「、、、。」うっとり♡
「ニコちゃん?」
スリスリ、、
「、、、キュン♡」うっとり♡
良し、ニコちゃんに決定だね!
「ふふっ♪ニコちゃん、気に入ってくれたかな?」
「キュ〜ンッ♡」
ああ、ホントに可愛い!!この笑顔を守るためにも、必ずや父さん・母さんを説得してみせるぞ!!
俺に体を預けて胸に頬ずりしてくるニコちゃん。
この天使猫ちゃんを守ると心に誓い、お風呂から上がるのであった、、。
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