見習い勇者と愉快な仲間たち(仮)

@黒猫

第1話 子供達



ドカッ!!!


「ほらっ、いつまで寝てるのっ!!早く起きて父さんの手伝い行ってきなさい!!」


「ぐっ、、だからってベッドから蹴落とすのは少し酷くない?」


「口で言っても起きないからよ!!母さんは朝ご飯作ってる最中なんだから、いい加減自分で起きてほしいわ!?」


「わ、分かってるよ。」



先に部屋から出ていった母を見送り、床の上に座ったまま背伸びをして意識を覚醒させる。


目が覚めたら急いで作業着に着替え、家の裏手にある畑へと走る。



「おっ?やっと起きてきたか、リュウ。」


「お、おはよう、父さん。」


「ああ、おはよう。寝起きのところ悪いんだが、そっちの列は終わってるから頼むな?」


「うん、任せて!」



父は寝坊した俺を怒りもせず、せっせと野菜を収穫して箱詰めする。


俺の仕事はそれを倉庫まで運ぶ事だ。


一箱15〜20kg程あるのだが、手押し荷車を使うことでスムーズな運搬作業を実現している。


持ち上げるのも大変だと思うかもしれないが、手押し荷車の形状が2本の腕の様になっていて、箱の底にある2本の溝に合わせて差し込めば、子供の俺でも楽々持ち上がるのである。


これが毎朝の日課で、約2時間の労働で300GLD(ゴルド)のお小遣いが発生し、しかも全額日払い・現金手渡しなのだ!!


うちの村で6歳の平均月収(お小遣い)が3000GLDなのを考えると、かなりの高待遇だと言える。


まぁ、寝坊1回につき−100GLDだから、大体6000GLDっていうのが俺の月収だな。


、、寝坊率100%とか言わないで下さいっ!!




「ふぅ〜、、。リュウっ、朝ご飯にしよう!」


「うんっ!後2箱だから先に行っててーっ!」


「はっはっは!じゃあ母さんにお小遣い多めにあげるように交渉してやるからな!」



と、頑張りを見せると父はそれに応えてくれる。

だから俺もより一層頑張れるってもんだ。



こうして今朝の作業を終えて家に戻る。

シャワーで汗を流し、部屋着に着替えてからダイニングへ。



「おかえりなさい。今ご飯持ってくるからね!」


「うんっ!」


俺は自分の席に座り、斜め向かいに座る父にチラッと視線を向ける。


それに気づいた父は、母に気づかれないよう注意しつつ、力強くサムズアップ!!


おおっ!お小遣いアップ交渉成立だねっ!?


、、あ、あら?なんか親指がフニャフニャ〜って倒れてしまいましたが?

で、グーになってから勢いよくパー??



理解が追いつかず父の顔を見ると、サッと視線を逸らす父。


まさかグーからパーってのは、爆発を意味してるんじゃ?ドキドキ、、



と、そこへ母が戻ってきた。



「はい、ご飯よ?」


「あ、ありがと。いただきま〜、、


「リュウ?あなた今日も寝坊したわよね?」


「え?あ、、うん。」


母は俺が食べ始めるのにストップをかけるように話し始めた。


そのまま食べ始めても良かったのだが、声のトーンからして激怒していると察し、俺は箸を置いた。



「父さんから聞いたわ。あなたが頑張って1人で残りも終わらせてくれたって。それは寝坊したから残ったのよね?」


「そ、そんなこと、、


バンッ!!

「寝坊したからよねっ!!?」


、、あります〜。ごめんなさい。」


言い訳をする間も与えず、テーブルを叩いて睨みつけられたら、潔(いさぎよ)く謝るしかありませんよね。



「そもそも!!来週から学校が始まるのよっ!?入学早々に遅刻なんてしたら、どんな教育をしてたんだって、リュウだけじゃなく父さんまでダメ人間だと思われるのよっ!!?」


俺と父さんだけなのね?



「で、でもさ?学校で魔法の勉強して、目覚ましの魔法を、、


バンッ!!!

「そんな魔法を覚える為に入学させる訳じゃありませんっ!!!!」


「ですよね〜、、。ごめんなさい。」


再びテーブルを叩き怒声を上げる母。こめかみに血管が浮き上がっているのもそうだが、厚さ15cmの木製テーブルにヒビが入るほど怒ってらっしゃるようだ。


ここは潔く謝っておくべきだろう。



「ま、まぁまぁ。母さん、落ち着いて?リュウだって謝ってるんだし、、


「謝って済む問題じゃありませんっ!!」


「ですよね〜、、。ごめんなさい。」


「だいだい!!父さんも悪いのよっ!?いつもいつも甘やかして、、


と、止めに入った父にまでお説教し始めた母の怒りの炎は、この後1時間ほど燃え続けたのであった、、。



鎮火してから冷め切った朝ご飯を食べ、リビングにて食後のお茶を楽しむ。



「それで、リュウの気持ちは変わってないの?」


「うん。俺は立派な勇者になって、困ってる人を助けるんだっ!」


「ふふっ♪それが聞けて良かったわ。ちょっと待ってなさい?」


そう言うと母はリビングから出ていった。

5分ほどで戻ってきたのだが、その手には一振りの剣が。



「母さん、、それは?」


「ふふっ、父さんと母さんからの入学祝いよっ♪」


母から渡された剣を鞘から抜いてみると、刃渡り120cmほどの片手直剣で超軽量であった。

朝日のような輝きを放つ剣身からは、どこか不思議な力を感じる。



「ありがとう!父さん、母さん。大切にするよ!!」


「ええ。まだリュウの身長だと長く感じるかもしれないけど、すぐちょうど良くなると思うわっ?」


「そうだな!早く大きくなるんだぞっ!?」


「うんっ!!ちょっと素振りしてくるねっ!!」


「暗くなる前に帰ってくるのよ?」


「分かってるよー!行ってきまーす!」



剣を背中に装備して外に出た。

身長138cmの俺が腰に付けると、鞘を引きずって歩く事になるからね。



「ここなら誰もいないし、剣を振り回すにはもってこいだね!」


家から西に徒歩20分ほどの場所にある、なかなかに広い草原へとやってきた。

ここは街道から外れており、薬草が生えているわけでもない為、ここで人を見ることは滅多にない。


ここでなら存分に剣を振り回せるだろう。



「よし、まずは基本の型から、、。」


俺は剣を上段の構えから振り下ろしてみたり、横に斬り払ってみたり、斜めに斬り裂いたりしてみた。


ふむふむ。やはり少し長くは感じるが、使い慣れてくれば大丈夫そうな範囲だね。



その後も、フェイントを混ぜてみたり、敵がいると想定して防御から攻撃へ移行する練習などを行った。



「はぁはぁっ、、。さ、さすがに3時間ぶっ通しはキツイね。」


俺は地面に大の字に寝転がり、軽く目を閉じて息を整える。



しかし、一つ失敗したね。ここまで激しい運動をするつもりじゃなかったから、飲み物なんて持ってこなかったよ、、。


かといって、ここから家まで帰るのもなぁ。



あっ、そういえばこの先の林の中に川があったっけ。


まぁ、少しばかり魔物も生息してはいるが、この辺りの魔物は大人が木の棒で瞬殺出来るくらいの、弱いやつがほとんどだからな!


まだ6歳で実戦未経験な子供ではあるが、剣を装備しているのだから負けるはずはないだろう。



ほっ!、、と体を起こし、今いる草原を更に西へと歩みを進める。


林の入り口まで来たところで抜剣し、キョロキョロと辺りを警戒しながら、行く手を阻む鬱蒼とした木々の枝を、剣で払い切りながら進んでいく。



、、ン、、ーン、、キューン、、


ん?なんかの鳴き声かな?


歩みを進めて行くと、何か弱々しい鳴き声が聞こえてきた。


雰囲気からして小柄な草食の魔物だろうが、人を襲う魔物である事に変わりはない。


俺は音を立てないように慎重に近づいていく。



ふむ。この茂みの向こう側にいるようだな。

、、いや。確実にいるな。


だって!茂みから体がはみ出してるんだものっ!!!


茂みの向こう側にいる魔物の正体は、猛獣王・ライオスキングだ。魔物図鑑で見た事あるから間違い無いと思う。


顔にぐるっと鬣(たてがみ)が生えているのが特徴的で、その巨体を感じさせない素早い動きで獲物を追い詰め、爪と牙でダメージを与え捕食するという。


高い知能をもち、齢(よわい)200を超えるライオスキングともなれば、人の言葉を使う個体もいるのだとか。



今まで討伐された記録によると、体長18m、体重4500kgとなっていたが〜、、、。


うん、明らかに30mくらいあるね。


これを倒せば記録を大幅に更新だな!


、、って!!無理無理無理ーっ!!!

子供の俺なんて、鼻息で塵(ちり)になるわっ!!


気づかれる前に、早急に離脱しなければ!!!



俺はソロ〜〜〜っと後退りを試みる、、



「そこの小さき者よ。」


、、前に気づかれましたね、はい。

俺の足で逃げたとしても、一瞬で追いつかれて終わるな。


それなら下手に刺激しない方が良いだろう。

話しかけてきたくらいだから、即殺すつもりはない、、よね?



「え、えっと、、俺に何か用でも?」


「ああ。小さき者よ、そんなに身構える必要はない。こちらに来てくれないか?」


ふ〜む。出ていった瞬間食べられる可能性もあるのだが、そういう感じはしないんだよなぁ。

まぁ、気づかれた時点で生殺与奪の権利は向こうにあるんだから、ここは言う通りにした方が生存率は高くなるか。


俺は言われた通り、茂みの影からライオスキングの前に出た。



「そ、それで?俺に用って?」


「はっはっは!逃げ出すかと思ったが、、小さき者よ。貴様の勇気、しかと見せてもらった。貴様になら託(たく)すことができる。頼んだぞ、勇気ある者よ、、。」


「えっ?俺に託す?何を??」


スゥーっと目を閉じ動きを止めたライオスキングだが、よく見るとその体の下には血溜まりが。


どうやら何かと戦って致命的なダメージを受けて、ここまで逃げてきたのだろう。

それでも、大事な物?を託せる誰かが来るまで、なんとか持ち堪えていたが、俺が現れた事によって張り詰めていた糸が切れてしまったのか。


しかし〜、、託されたは良いが、せめて何を託したのかは教えてほしかったよ。


キョロキョロしながらライオスキングの周りを一周してみる。



「ふ〜む。特に何も見当たらないなぁ。、、ん?今、動いた?」


ジ〜〜っとライオスキングの遺体の一部を凝視してみる。


鬣(たてがみ)の奥に何かいるようだね。



ここで俺は、初めに聞いた鳴き声を思い出し、ライオスキングが何を託したかったのか察しがついた。


俺はライオスキングの鬣(たてがみ)に手を突っ込み、もぞもぞ動いているものを掴んで引っ張り出した。



「ふぅ。これは死ぬに死ねないよな。、、こんなに可愛い子を1人ぼっちにするなんて無理だもんね!」


「キュ〜ン、、。」


俺の両手に抱かれたソレは、体長30cmほどの小さな子猫のようなライオスキングであった。

まだ子供だからか、鬣(たてがみ)は無いけどね。



「大丈夫だぞ。俺がずっと一緒にいるからなっ!!」



そう言いながら、プルプルと震えるライオスキングの子供を、優しく抱きしめたのであった、、。



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