7.戦いの後

 戦いに勝利した僕たちは、町の人に囲まれていた。

「青いマントの青年を中心とした新しいパーティーがすごいって、少し噂だったんだよ」

「まさかこの町にいたなんてなあ。不幸中の幸いとはこのことね」

「バランスがよくて、いいチームじゃあないかい」

 町からは報奨金が出た。そのお金を払っても構わないのに、感謝の証と言われ、無料でご馳走を振る舞ってもらった。

「まるでお祭り騒ぎね」

 テラスに出ていた僕の隣にカナやんが座った。冷たくない夜風と、背後から聞こえる笑い声が心地いい。ただこれが自分たちのための宴なのだと思うとむず痒くもある。

「まさかこんなに感謝してもらえるなんて。困った人を助けるって、こんなにも気持ちのいいことなんだな」

 現実では上手く手を差し伸べられない。手助けしたいという気持ちはあるのに、一方でそれを阻止する何かがあるのだ。人として恥ずかしいけれど見て見ぬフリをしてしまう。けど、一歩踏み出したいなと思った。

「ヒーローなんて、別に物語の中だけじゃないよな」

「え、何か言った?」

「ううん、なんでも」

 誤魔化すように、コップのジュースを口に入れた。

「あ、アオ兄ちゃん!」

 一人の少女が走って近づいてきた。

「イオリちゃん。よかったね、お母さんとまた会えて」

 彼女は満面の笑みを浮かべた。

「アオ兄ちゃんのおかげだよー」

「本当にありがとうございました」

 イオリちゃんのお母さんが、丁寧に頭を下げてくれた。

 敵を倒した後、僕は避難した人たちのところへ向かった。そこにはまだ母親と合流できていないイオリちゃんの姿があったので、肩車をしながら二人で母親を探したのだ。幸いすぐに見つかり、僕はカナやんたちのもとへ戻った。

「アオ兄ちゃんにもらったお守り、ちゃんと持ってたよ」

「偉いね。きっとイオリちゃんを守ってくれたのかもしれない」

 彼女はそれ・・を、夜の空にかざした。ガラス玉を通して星が小さく輝いている。

「アオ、それ……!」

「うん。サクラからもらった結界玉」

 これを見て、彼女は肩をすくめた。

「なるほどね。突然いなくなったのは、この子を助けたからなのね。そして結界玉を持っていなかったから、あの時怪我をした、と」

「そういうことです」

 潔く認めた僕に、彼女は苦笑いをした。

「まあ、アオらしいわね。傷は大丈夫?」

「全然問題ないよ。ネコに回復魔法を施してもらったから、治りも随分早いんだ」

 僕はガッツポーズをしてみせた。

「ならよかったわ」

 カナやんと目が合い、自然と夜空を見上げた。ここの空は、僕たちの世界の空よりもとても近く感じる。強弱をつけて瞬く星も、こんなにたくさん見たことはない。僕たちの世界とは恐らく繋がっていないであろう空に、ふと寂しさがこみ上げてきた。

「帰れるのかな」

 気づいたらそう呟いていた。

「どうかしらね」

 それから少しの間、お互い無言で星空を眺めていた。

「おーい。アオ、カナやーん。デザート出してくれたから、中にこいよ。じゃないと俺が全部もらっちまうぞー」

 僕たちは思わず吹き出してしまった。

「ひろろんならやりかねない」

「そうね。それだけは阻止したいわ」

 席を立ち、賑やかな明るい場所へと戻ることにした。

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