5.赤く染まった町

 初めて見る光景に、唾をごくりと飲み込んだ。町のあちこちで火の手が上がり、助けを求める声が聞こえる。

 開けた場所に着くと、僕たちはレオの背中から降りた。敷き詰められたレンガの感触は、直接触れてもいないのに熱を持っているような気がする。ぞくり、と一気に緊張感が高まった。

「すみません! あの、何があったんですか」

 僕たちの近くを走っていった男の人に、カナやんが声をかけた。

「突然、真っ赤な服を着たの奴らが町を襲ってきたんだ! あんたらも早く逃げた方がいい」

 それだけ言うと、彼はまた走り去ってしまった。

「やはり敵の襲撃のようだな」

「そうね。私たちがなんとかしないとだわ」

 ネコとカナやんが頷き合った。

 スナイパーであるアキは、ここで別行動をとることになった。狙撃に適した場所を探しに行くらしい。

「不思議と狙撃場所を探すコツは分かってるんだよねー。狙撃なんてしたことないのにさ」

「アキ。これ持ってって」

 サクラが右手を差し出した。それを受け取ったアキは、左手で空にかざす。

「綺麗~。ガラス玉かな」

 サクラがこくりと頷いた。

「結界玉。狙撃の時に背中が無防備になっても、それがアキを守ってくれる」

「すっごーい。サクラ、ありがとー」

 アキは手を振って、僕たちが来たのとは逆の方向へと走っていった。

 サクラは、先ほどの結界玉をネコにも渡した。

「助かる。回復方法とかはなんとなく頭にあるんだが、戦闘に関してはさっぱりだからな」

「ネコの場合は、非戦闘員という立ち位置かもしれないわね。結界玉があるとは言え、万が一のことを考えて、戦闘中は身を潜めていた方がいいかも」

 カナやんは顎に手を当てながら、冷静に判断してくれている。

「分かった。そうするよ、ボス」

「ぼ、ボス?」

 ネコの言葉に、カナやんは眉をしかめた。

「カナやんは俺たち文芸同好会のリーダーだ。だからボス。異議は認めないぞ」

 彼はそう言って、眼鏡をクイッと上げた。

「ボス、これからどうする?」

「えっ。急に振らないでよ、サクラ。どうするって言われても、私こういう展開には詳しくないのよ」

 カナやんが好んで読む本は、純文学が多い。彼女が困ったように、視線を僕に向けてきた。

「えっとそうだな、まずは敵を見つけよう。あっちからかなりの悲鳴が聞こえるし、爆発も多いから、多分あそこに敵がいると思う」

 僕はアキが向かった方向の少し右手を指差した。

「そこで二手に分かれよう。敵と戦うチームと町民を避難させるチーム。僕とカナやんはとりあえず戦闘チームかな。ひろろんは避難誘導チームだ。レオが活躍してくれると思う」

 レオは自分の役目を分かっているのか、ガオッと返事をしてくれた。

「俺は回復役だから、戦闘チームにいる必要があるな。その上で近くの建物か何かに隠れているとするよ」

「ネコが戦闘チームなら、あたしは避難誘導チームに行く。防御魔法で町民を守る」

 残るはあーちゃんだ。彼女がサモナーとして何を召喚できるのかで役割が変わる。

「うーんと、今のところ精霊三体と契約してるみたいだよ。ボク自身が精霊と融合? して戦うこともできるから、二体を避難要員に回そうかな。一体はボクと一緒に戦う。近距離も遠距離もいけるよ!」

 親指を立ててウインクをしたあーちゃんに、とても頼もしさを感じた。

「それじゃあ、役割が決まったところで早速向かいましょう。それからチームのボスは私でも、リーダーはアオね。エース的な存在よ」

「ええっ。僕が?」

 慌てて他のメンバーを見回したが、全員笑顔で頷いている。

「アオはよくラノベ読んでる」

「サクラの言うとおりだ。お前、いっつもファンタジー作品について熱く語ってるじゃねえか」

 ラノベに出てくる勇者に憧れていた。自信があって信頼もされていて、それに応える実力がある。そんなかっこいい勇者を見ては、自分がなりきっている姿を思い描いていた。

 しかし実際は、非現実的な光景に戸惑うだけ。僕にリーダーなんて務まるんだろうか。

「私だって、部長だからという理由でボスにされたのよ。しのごの言わないっ」

「は、はいっ」

 カナやんに背中を叩かれ、気合が入った。

「よし、行こう!」

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