第11話 バベルでの新拠点確保(お化け屋敷)

 今、訪れているのはバベル第六区にある老朽化した広大な敷地と一際大きな屋敷。此度オウボロ学園への入学が正式に決定されて、今までローゼが住んでいた屋敷はのっぴきならない事情により、使えなくなったのでバベルにおける新しい拠点を見つけることが急務となったのである。私たちが気に入っていたローゼが住んでいた屋敷を追い出される理由とは、その学園都市バベルの面倒なシステムによる。それは大きくバベルにある区画が関連している。

 ここで、このバベルの区画は六区にわかれている。

 第一区――バベルの中心にある都市の中心。丁度、バベルのど真ん中に雲を突き抜けて聳え立つバベルの塔があり、ハンターギルドの中枢セントラルセンターや各国の領事館などが立ち並んでいる。

 第二区――バベルの北中央部。各国の王族や、最重要人物の居住区がある場所。第二区には独自の商業施設もあり、ここらの店に入るためには一定の資格や条件が要求される。

 第三区――バベルの北西部。主に塔の教師や超エリートであるバベルの塔の在籍者の居住区がある。ここの全施設は機密性の観点からバベルの塔の在籍者以外の立ち入りきは禁止されている。

 第四区――バベルの北東部。高級店が立ち並び、一流学園が存在する。貴族やバベルの塔の出身者などの上位者たちの居住区もある。ここにある店は原則、入店制限などは存在しないが元々高所得層をターゲットとしており、高額なため一般の学生には敷居がかなり高いものとなっている。

 第五区――バベルの南西部。バベルで最も広く、人口の多い学区。多くの商業施設と中間の成績の学園が存在する地区。

 第六区――バベルの南東部。底辺学園が存在する学区。治安もバベルの中でも最も劣悪とされている。

 この一から六区のうち、一部居住区として設定されているものは、二区から六区である。学生だけは通学があまり遠くなってはならぬと建前から、原則学園のある区画のみに居住することができる。

 ローゼが在籍していたのは一流学園だったこともあり、本来四区に居住しなければならないが、学園からの距離が近いと理由で特別に許可をもらって五区のあの屋敷に住んでいたらしい。

 もっとも、あくまでそんな許可が出たのは、四区から五区のように自らランクを落とす場合のみ、逆の五区から四区を希望するなどのランクを上げるタイプの居住は不可能。結局、オウボロ学園のある六区での拠点を見つける必要に迫られたのである。

 当初、ローゼが住む屋敷にいてはいくつか候補を持ってきたが、全て最終的には断られてしまう。

 おそらく、これはバベル副学院長ラスプーチンの圧力によるものだろう。ギルからの情報ではラスプーチン・グラハートはアメリア王国出身の魔導士であり、ローゼを目の敵にしている。特にラスプーチンは中央教会の思想を強く受けており、実力・ギフト至上主義。私のようなこの世で一番の無能のギフトホルダーのロイヤルガードなど絶対に認めたくはないのだろうさ。

 総学院長のクロエからは度々、六区での居住の紹介状を書くと申し出をされるが、丁重に断った。これはローゼへの恰好の試練だ。確かに無能の私がロイヤルガードになったことも一因ではあるが、それも踏まえても解決すべきはあくまでローゼ自身。私は補佐役にすぎぬのだ。私が築いた道を歩き続けることは、彼女の成長を著しく阻害する。ゆえに基本的には傍観していたわけだが、オウボロ学園の入学一週間前になっても一向に居住が決まる気配がなかったので、手を貸すこととしたのだ。特に六区はラスプーチンの影響力が強い地区らしいから、ローゼの努力が報われにくいという事情もある。それに、ローゼは良くも悪くもまっすぐだ。私のような人の裏の事情には精通していない。ま、此度は相手がわざわざ提案していることでもあるし、別に大した関与ではあるまいよ。

「ちょ、ちょっと待ってください! ここってあの呪いの館では!?」 

 ローゼが血相を変えて私に詰め寄ってくる。

「うむ。なんでも、住むものがことごとく災難にあったとか言っていたな」

 そうだ。ここは、ラスプーチン派のバベルの役人から勧められた物件。

 変死5件、重症例2件、軽傷を含めれば10回ほど。遂にはバベルが調査に乗り出すも、特段変わったところはない。不気味に思った当時の所有者が屋敷を取り壊そうとするが、次の日、首をかき切った状態で発見される。遂に、誰も立ち入ることすらしなくなり、この屋敷は長年バベルが管理することとなる。

 つまり、一時的に訪れるだけなら何も起きないが、屋敷を壊したり、住んだりすると不幸が訪れるってわけだ。当然のごとくこんな悪質な場所に住みたいと思う危篤なものはおらず、ずっと所有者不在のまま放置されてきた場所。

「それを知っていて、なぜこんな場所を買うんですっ!?  ここはバベルさえも匙を投げたこの都市内でも有数の曰く付きの場所ですよ!」

 そうだろうな。何せバベルの役人にこの屋敷の買い取りを了承したら、途轍もなく動揺していたし。

「だからだ」

「だ、だから?」

 壮絶にドモリながら、オウム返しで尋ねてくるローゼに、

「ああ、呪い? 大いに結構ではないか。アンデッド等の魔物が巣くうのなら、駆除すればよい。もしこの土地にかけられた呪術の類ならそれそのものを破壊すればいい。その程度の労力にすらならぬ対処で、二束三文でこの膨大な土地と屋敷が買えるのだ。ほら、かなり、お買い得だろう?」

 当然の返答をする。何せこの広大な敷地と古いがしっかりとした大きな屋敷がたった50万オールなのだ。これほどお得感のある買い物はそうはない。

「お、お買い得?」

 右頬をヒクつかせながら、まるで奇怪な未知の生物でも見るかのような目で眺めていたが、ローゼは大きく息を吐き出すと、

「そうでした。これがカイでしたね」

 心底疲れたようにそう呟いたのだった。




※作者からのお知らせ:副学院長の名前をラスプーチン・グラハードに変えました。混乱申し訳ございませんございません。

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