第113話 蝗害

 悪軍の悪兵師団2万が鬨の声を上げて、長剣を上段に構えながらも大地を疾駆する。

 悪兵師団は歩兵。悪軍の中では最も最下級の者どもで構成されている。だが、それはあくまで悪軍での序列の話。実際の世では単騎で最強である竜種さえも楽々屠る力を有する強者の集団。そんな竜種を超える強者が2万も、地響きを上げながら高速で地面を突進してくるのだ。その圧力は並大抵なものではない。

 獅子顔の怪物は今も迫る悪兵たちに顔色一つ変えず右の掌向けると、


『総員、突撃ぃ!』


 号令をかける。


『『『『『ぎぎっ(おうっ!)』』』』


 大気を震わせる咆哮を上げると、バッタ男たちも走り出す。そして、それは悪兵たちとは比較にならぬほどの速さで、しかも、一切の無駄がなかった。

 両者に隔たる大きくも深い溝は、すぐに残酷な結果として顕在化する。


『へ?』


 先頭をひた走る悪兵の一人が、素っ頓狂の声を上げる。当然だ。突如あれほど遠くにいたバッタ男たちが、彼らの目と鼻の先に迫っていたのだから。

直後、バッタ男たちの右の手刀が揺れ動き、悪兵たち数百の首が宙に舞った。

 そこからは、巨獣に踏みつぶされる蟻のごとく、悪兵共はバッタ男により真っ赤な血肉と化していく。



――鉢巻をしたバッタ男が独特の歩行術により悪兵の懐に入る。


『ひっ⁉』


 小さな悲鳴を上げる悪兵の腹部に右の掌底を突き出し悪兵の鳩尾を打ち抜く。掌底は一撃、そのはずなのに、当たった鳩尾を中心として全身に衝撃が広がっていく。直後、悪兵の全身はズタズタに引き裂かれる。

 


 ――混戦となりバッタ男を取り囲む四体の悪兵。四体の悪兵は筋肉質であり、バッタ男の優に3倍の大きさがあった。


『きぇえっ!』


 背後の悪兵の一柱が振り上げた金棒をバッタ男の脳天目掛けて振り下ろす。

 バッタ男は振り返ることなく身体の重心を移動して左手で振り払う。


『うぉッ⁉』


 バッタ男に流された金棒は勢いを止めず隣の悪兵の頭部を打ち上げて、その首をへし折った。


『なぁッ⁉』


 驚愕に顔を引き攣らせる金棒を振り下ろした悪兵の頭部にバッタ男の右の裏拳がぶち当たる。悪弊は一直線に吹き飛び他の悪兵に衝突してぐちゃぐちゃの肉片と変える。


『は?』


 数回瞬きをした僅かな間に同胞の三柱さんにんが殺された。その状況が呑み込めていないのだろう。目を見開き身動き一つできぬ悪兵たちの頸部にバッタ男の手刀が突き刺さり、あっさり絶命する。



――地面を超高速疾駆するバッタ男の一団。彼らの速さはバッタ男たちの中でも突出しており、疾風迅雷に縦横無尽に戦場を駆け巡る。


『何が――』


 悪兵たちからは、もはや緑色の光の筋としか認識できはしない。


『はぎ?』


  悪兵たちは指先一つ動かすことはできずバラバラの肉片まで解体されてしまう。



――三メルを超える一際大きなバッタ男の一団は、悪兵の集団にタックルしていく。


『うあっ! くるなぁぁぁっ、バケモンめぇぇぇっ!』


 バッタ男にそんな慈悲など通じるはずもない。その凄まじい衝撃により、悪兵たちが上空高く舞い上がる。そして、バッタ男のその鍛え抜いた岩石のような右拳が、悪兵の集団に突き刺さり、爆風が巻き起こる。血飛沫が降り注ぐ中、悪兵どもごと、巨大なクレーターと化していた。

 巨体にしては不自然な俊敏性でバッタ男は即座に、再度、次の標的を探して戦場へさ迷い走る。



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