第82話 最悪に運の悪いエントリー
ノースグランドの断崖絶壁を凄まじい速度で登る二つの影。二つの影は頂上のノースグランドの大地に到達する。月明りは二人の男女を照らしていた。
一人は黒服を着たやけに小柄で猫背の男であり、両眼にゴーグルのようなものをかけている。
対してもう一人は著しく肌の露出度の高い黒色の衣服を着た左目に眼帯をした女。
「おい、ヴィネガー、どう考えても、こっちは外れだろう?」
ゴーグルをした男が不満げにぼやく。
「かもしれないじゃーーん」
眼帯をした女、ヴィネガーが飴を舌で転がしながら、陽気に返答する。
「それにしても、俺たち『凶』の情報網でもこの半年間、尻尾も掴ませねぇとはなぁ。その情報屋、ぜってぇまともじゃねぇ」
「あんたと意見が一致するなんてねぇ。マジでキッショッ!」
ゴーグルをした男は、眉を顰めると、
「だったら、なんでそんなに上機嫌なんだ? 完璧に無駄骨になるんだぞ?」
半眼で発問する。
「もちろんーー、玩具がいっぱい、集まっているのみつけたからぁ」
眼帯の女、ヴィネガーは真っ赤に染めた頬を両方の掌で抑えながらも見悶える。
「あーあ、あの途中の森の集落か。まあ、確かにド田舎にしては色々持ってそうだったな」
舌なめずりをするゴーグルの男に、
「そうそう! 女と子供は私の玩具だからとっちゃやーよ!」
腰からナイフを抜き放つとクルクルと手で回しながら笑顔で威嚇する。
「とらねぇよ! 俺はお宝になりそうなもの以外、興味はねぇ。もちろん、その女と子供が相当貴重でなけりゃあだがなぁ」
「へー、ペッパー、それってこのアタシから、かすめ取ろうって発言ってわけぇ?」
笑顔のままヴィネガーの片目が真っ赤に染まり、回していたナイフの柄を掴むと脱力する。
「馬鹿いえ、俺たちは『凶』だぞ? もちろん、力ずくだ」
ゴーグルの男、ペッパーの両手の指から鋭い刃物が伸びると低い身体をさらに低くかがめた。
「……」
「……」
二人はしばらく睨みあっていたが互いに小さなため息を吐くと、武器を収める。
「なら、お宝系は俺がすべてもらう。女とガキはお前にくれてやる。これでどうだ?」
「それなら異論はないわぁ」
お互い納得したのか、薄気味の悪い笑みを浮かべていたが、
「で? シュガーからの最後の情報は猫の魔物の集落だったんだな?」
「みたいよぉ、でも、シュガーの滞在場所にはこの地は一切含まれていないみたいだけどぉ」
「なら、やっぱり徒労じゃねぇかよ」
「多分ねぇ。でも、もし、もしよぉ、この地にその猫の魔物がいて、そいつがシュガーを殺したってわかったら、マジですごくなーーい?」
「いくら雑魚シュガーでも、腐っても『凶』。それを殺すレア魔物の奴隷となれば、天文学的な値が付くな。故郷に持ち帰れば一財産だぜぇ」
「そうねぇ、それだけで隊長なら、シュガーの失態は帳消しとみなすはずよぉ」
「だろうなぁ。俄然やる気がでてきたぜぇ」
「私もぉ……」
まばらに生えているノースグランドの地を二人は歩き出した。
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